ウディ・アレン(Woody Allen)監督の最新作です。この夏に公開された「ミッドナイト・イン・パリ」は、ストーリー展開もしっかりしていて、ある意味、正統派の映画でしたが、その前に作られたというこの「恋のロンドン狂騒曲」は、「人生万歳」に続いて、気の利いた会話と小気味良い展開が持ち味のウディ・アレンらしい映画です。
中心となる登場人物は、処女作が当ったものの、それ以来低迷している作家ロイと、ギャラリスト志向の妻サリー、その両親であるアルフィとヘレナ。この4人が、それぞれパートナー以外の相手に惹かれることで、映画が展開していきます。
ロイが惹かれるのは、向かいの部屋に引っ越してきたディア。赤い服を着て、窓辺でギターを弾くインド系の美女を演じているのは「スラムドッグ$ミリオネア」のフリーダ・ピント(Freida Pinto)です。
それを窓越しに眺める書けない作家ロイを演じるのはジョシュ・ブローリン(Josh Brolin)。「ミルク」「トゥルー・グリット」で悪役の印象が強い彼ですが、今回は、医学部を卒業したにもかかわらず、医者の道を選ばず、作家としての成功を夢見る純朴な中年(?)の役です。
妻サリーを演じるのは、「愛する人」のナオミ・ワッツ(Naomi Watts)で、惹かれる相手はギャラリーオーナーのグレッグ。演じているのが「私が、生きる肌」のアントニオ・バンデラス(Antonio Banderas)ですので、観る前は、映画の原題にある"Tall Dark Stranger"は、彼が演じるグレッグのことかと思っていたのですが、題名にするほど重要な役だとは思えません。
それで調べてみたら、"You Will Meet a Tall Dark Stranger"というのは占い師の決まり文句だそうで、さしずめ「近いうちに良い出会いがあるでしょう」といった感じでしょうか。敢えて"Tall Dark and Handsome"と言わず、出会いを求めている人に期待を抱かせながら、疑心暗鬼な人を煙に巻く常套句だそうです。ですから、誰のことか考えるより、ウディ・アレンが観客を煙に巻いていると考えた方が良さそうです。
そしてサリーの父親、アルフィを演じるのがアンソニー・ホプキンス(Anthony Hopkins)で、とても味のある演技をしています。死の恐怖から逃れるために身体を鍛え始め、若返りに励むのですが、それが原因で妻へレナと離婚し、テムズ川沿いの高層住宅(Albion Riverside Bldg)でハリウッド女優崩れのシャーメインと暮らし始めます。
別れた妻ヘレナといえば、マッサージ師から紹介された占い師を信じ、彼女のもとに足しげく通う不思議ちゃんシニア。彼女が惹かれるのは、死別した妻の霊と交信を試みているジョナサンで、オカルト系の本を集めた書店を経営している、これまた不思議シニアです。
ディアには婚約者がいるし、グレッグはサリーが紹介した女性アーティストといい関係になるし、ジョナサンは死別した妻への思いから離れられないし、蓮っ葉なシャーメインはいわずもがな。それぞれ結婚が破綻しながら、新しい相手ともスムースにはいきません。
といっても何か劇的な事件が起こるわけでもなく、さまざまなエピソードで笑いをとりながら、ゆるゆると展開していきます。どうでもいいような日常を、ウィットに富んだ演出でみせてくれるのがウディ・アレンの真骨頂ですよね。
何かと気忙しい年末、こういう他愛ない映画を観に行くのも、息抜きに良いかも知れません。個人的には、アンソニー・ホプキンスがいちばん笑えました。
公式サイト
恋のロンドン狂騒曲(You Will Meet a Tall Dark Stranger)
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