ベン・アフレック(Ben Affleck)が監督と主演、ジョージ・クルーニー(George Clooney)がプロヂューサーを務めたハリウッド映画の話題作。1979年にイランで起こったアメリカ大使館人質事件の際、秘密裏に行われた大使館員の国外脱出作戦、いわゆるCanadian Caperを描いた実話ベースの作品です。
西側諸国の支援を得て政権を担っていたパーレビ国王が失脚し、エジプトに亡命した後、癌治療を目的として米国に入国。彼を受け入れた米国に反発したイラン人たちがテヘランの米国大使館を占拠し、元国王の引渡しを求めた事件。
そのとき、米国大使館から密かに逃げ出した6人の大使館員がカナダ大使の私邸に匿われました。最初に逃げ込もうとした英国大使館等が彼らを拒絶したことからわかるように、匿った側も大きなリスクを抱えてしまう、非常に厄介な存在です。
6人の存在がイラン側に知られる前に、なんとか彼らを国外に連れ出さなくてはならないということで、いくつかの作戦が立案されますが、どれも問題ありということで、結局、遂行することになったのが、この映画で描かれている作戦です。
「アルゴ」というタイトルのSF映画を撮影するというホラ話をでっちあげ、そのロケハンという名目でアシスタント・プロデューサー役のCIA局員がイランに入国。隠れている6人を脚本家やカメラマンに仕立て上げ、CIA局員と一緒にスイスに出国するというもの。このバカバカしい作戦を、命がけで成し遂げ、それが実話だということが面白いところです。
入国するCIA局員、トニー・メンデス(Tony Mendez)に扮したのがベン・アフレック。同時に監督も務めているわけですが、出国するまでの緊迫感の盛り上げ方は、さすがハリウッド映画という感じです。脱出に成功するとわかっていても、後半は身体をかたくして見続けることになると思います。
偽映画の制作に協力したメイクアップアーティスト、ジョン・チェンバーズ(John Chambers)を演じたのが、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」のジョン・グッドマン(John Goodman)。この春の「アーティスト」でもワインスタイン風のプロデューサーを演じていましたが、ハリウッドの大物の役が板についています。
そして、偽映画のプロデューサー、レスター・シーゲル(Lester Siegel)を演じたのが、「50歳の恋愛白書」のアラン・アーキン(Alan Arkin)。とっても味のある役者さんですね。トニー・メンデスとタコスを食べながら身の上話をするシーンで「悲しきサルタン(Sultans of Swing)」が流れていて、サルタンといえばこの曲を思い出してしまう安直さも良い感じです。
映画のストーリーをシンプルにするためか、元ネタになったジョシュア・バーマンの記事がそうだったのか、パーレビ国王は最初から最後まで極悪人として描かれていますが、豪勢な生活ぶりは真実としても(たとえばこれ)、女性解放を進め、イランの近代化のためにイスラムの世俗化を図ったという点では、それなりに意味のある政治をした人でもあります。
その後、イランはホメイニ氏による宗教独裁体制となって不透明な粛正が行われ、現在のハメネイ氏に引き継がれてからも、西側諸国への反発を政治の原動力にしているわけで、パーレビ国王にまつわるエピソードも、いろいろな見方ができると思います。ちなみに、パーレビ国王はこの事件の翌年に病死し、その娘は2001年にロンドンのホテルで自殺、ハーバード出身の息子も去年、ボストンの自宅で自殺したとされています。
そんなわけで、実際のイランがどうなのかはさておき、素直に緊迫感に身を委ね、ハリウッド的な小気味よい展開を楽しむ映画だと思います。
[仕入れ担当]