TVディレクターとして長年活躍してきたマイケル・モリス(Michael Morris)が、初めて監督した長編映画だそうです。主演のアンドレア・ライズボロー(Andrea Riseborough)がアカデミー主演女優賞にノミネートされて注目を集めました。
監督も主演女優も英国出身ですが、映画の舞台は米国テキサス州です。
ライズボローが演じるのは宝くじに当選して19万ドルという大金を手にしながら、酒に溺れて使い果たしてしまったシングルマザーのレスリー。10代の息子を実家に置いたまま街を出たのですが、当然のごとく行き詰まります。

暮らしていたモーテルから追い出され、実家を出て独り立ちしたばかりの息子ジェームズに電話して迎えに来て貰います。彼は外装屋の見習いのような仕事で稼ぎながら、同僚のダレンとルームシェアして暮らしています。彼いわく“生活を立て直している”とのこと。
レスリーが今後の計画を立てるまでの間、酒を飲まないことを条件にジェームズの部屋に居させてもらえることになるのですが、服まで買いそろえて貰ったのに、ダレンの部屋から盗んだ小銭で酒を飲んでしまいます。未成年で酒すら飲めないのに、アル中の母親の面倒をみるのは辛すぎるということで、ジェームズはレスリーの旧友ナンシーに頼んで母親を引き取って貰います。
一旦はナンシーとパートナーのダッチが暮らす家に受け入れられますが、それも長続きしません。バーにいることがバレて家から閉め出され、モーテルに泊まるカネもないのでモーテルの外で寝ているところを、経営者の一人であるスウィーニーに拾われます。
そこは元々、ロイヤルの父親が経営していたモーテルなのですが、ロイヤルに奇癖があり、彼に継がせることを不安に思った父親が客だったスウィーニーを経営者として雇ったのです。ですから、ロイヤルとレスリーは昔からの知り合いですが、よそ者であるスウィーニーはこれまでの彼女について何も知りません。

事情を聞いたスウィーニーは、求職者と間違えたフリをしてレスリーを雇い入れます。とはいえ飲酒癖は抜けず、週給の前借りをしてはバーに通い、朝寝坊して仕事に遅れる始末で、ロイヤルはいい顔しません。なぜスウィーニーがレスリーの行動を容認しているのか、彼の過去が明らかになるにつれてわかってくるのですが、いずれにしてもその時点で彼女を救おうとしているのはスウィーニーだけで、その信頼関係の行方が物語の軸になってきます。

35mmフィルムで撮ったというザラついた映像と、随所で流れるカントリーミュージックが印象的な映画ですが、何はともあれ、アルコール依存症で自堕落な生活を送りながら、良い母親になりたいという切ない心情を表現したアンドレア・ライズボローの演技が際立つ一本です。

レスリーがアルコール依存症になった原因、たとえば不仲な両親との確執なのか、ジェームズの父親の問題なのか、といった語られない背景をイメージさせるテキサス州という土地柄も効いています。実際の撮影はコロナ禍の関係でカリフォルニアで行われたようですが(Carl’s Motel)、スウィーニーの娘がアビリーン(Abilene)郊外から来たと言っていることから、メキシコに近いテキサス州西部という設定なのでしょう。終盤の店の営業表示にもスペイン語が添えられています。
スウィーニーを演じたのは「ジョーカー」や「リスペクト」に出ていたマーク・マロン(Marc Maron)。ロイヤルを演じたアンドレ・ロヨ(Andre Royo)との組み合わせが絶妙です。

また、レスリーの旧友ナンシーを演じたのは「ヘルプ」「アイ,トーニャ」「スキャンダル」のアリソン・ジャネイ(Allison Janney)。出演者の中で最も有名な俳優ですので、単純な役ではないとすぐわかってしまうことが玉に瑕ですが、さすがの存在感で映画を締めくくります。

[仕入れ担当]