一種のロマンティック・コメディなのでしょうね。タイムループに陥った男女2人がある種の気付きを得ていく物語です。舞台となるパーム・スプリングスの脳天気な陽光が、明るく無邪気なオバカ映画に馴染みます。
とはいえロケ地はパーム・スプリングスではなく、同じカリフォルニア州でもL.A.に近いパームデール(Palmdale)やサンタクラリタ(Santa Clarita)だそう。西海岸の内陸リゾートというのは、どこも砂漠の中に設えられた人工的な街なのですね。映画に何度も登場するモーテルの部屋はフォーエイセズ(Four Aces)、砂漠のシーンはロッキービュート(Rocky Buttes)で撮ったようです。

幕開けは主人公のナイルズが目覚める場面。ベッドの足元にいるのは既に起きていた恋人のミスティで、2人はパーム・スプリングスで行われるタラとエイブの結婚式に参列するため、この部屋に泊まっているようです。

その晩の結婚パーティで、花嫁の姉である付添人のサラがスピーチを求められて困っていると、普段着で現れたナイルズが感動的なスピーチをしてその場を収めます。そしてサラを熱く口説くナイルズ。ミスティはトレバーと浮気中なので、自分はサラを口説いてもいいという妙な理屈です。

ナイルズとサラはパーティ会場を出て、ひと気のない砂漠で良い雰囲気になるのですが、突然現れた男がナイルズを弓矢で襲撃します。洞窟に逃げ込んだナイルズを救おうと追いかけたサラに、こっちに来るなとナイルズが叫びますが、時は既に遅し。洞窟の奥で二人は渦に巻き込まれ、サラは気を失ってしまいます。

続く場面は、映画の始まりとまったく同じく、ナイルズがベッドで目覚めたところ。恋人のミスティと交わす会話も同じです。実はナイルズ、かなり以前からタイムループにはまっていて、目覚めると必ず11月9日の朝なのです。一方、自分のベッドで目覚めたサラは、今日が11月9日の結婚式当日であることに驚き、その後、結婚式までの出来事が再び繰り返されてさらに驚きます。そして、プールで寛いでいたナイルズを見つけて問い詰めた結果、ナイルズと同じくタイムループに陥ったことを知ります。

混乱したサラは、洞窟に戻ったり、運転してオースティンまで行ったり、自殺を試みたりしますが、意識が戻るといつも11月9日の朝です。この状況を理解できるのはナイルズしかいないということで、結局は彼と一緒に過ごすようになります。

ナイルズの説明によると、彼に矢を放った男はアーバインから来たロイ。新郎新婦の親族とのことで、結婚パーティで知り合って一緒に麻薬を楽しんだ際に彼もタイムループにはまってしまい、ときどきパーム・スプリングスに来ては、憂さ晴らしにナイルズを殺すそうです。ナイルズの側からすれば、殺されても11月9日の朝に目覚めるので何の変化もないのですが……。

次第に親密になっていくナイルズとサラにとって問題になるのは、これまでタイムループの中でナイルズが何をしてきたかということ。あまりにも長くこちら側にいるので覚えていないとナイルズはとぼけますが、ここから脱出することを諦めて享楽的に過ごしていたわけですから、たとえば何度もサラを口説いていた可能性があるわけです。

もちろんサラがその前夜まで何をしていたのかもナイルズは知らないわけですが、彼女を知ろうと痕跡を辿ればおのずとわかってきます。この情報格差によるズレがその後の物語を進めていきます。

こういう設定の映画ですから、ロイの言動など辻褄の合わないところも多々ありますが、ブラキオサウルスを見ながら突っ込みどころを探るより、何も考えず映画の世界に身を委ねた方が良いでしょう。抜けるように青い空を見ていると彼らがところかまわず飲みまくる架空のメキシコ産ビール、アクパラ(Cerveza Akupara)が欲しくなります。

ちなみにアクパラ(Akupāra)というのはヒンドゥー教の神話に出てくる巨大なカメの名称からとったもので、チュクワ(Chukwa)とも呼ばれるその亀の甲羅の上に立っている4頭の象マハープドマ(Mahapudma)が我々が暮らす世界を支えているとか。

そんなわかりにくい仕掛けを施した監督はマックス・バーバコウ(Max Barbakow)。主人公のナイルズ役はコメディアンのアンディ・サムバーグ(Andy Samberg)、サラ役は「ウルフ・オブ・ウォールストリート」でベルフォードの元妻役だったクリスティン・ミリオティ(Cristin Milioti)が演じています。有名どころでは謎の男ロイ役で「セッション」「ラ・ラ・ランド」のJ・K・シモンズ(J.K. Simmons)が出ています。
公式サイト
パーム・スプリングス(Palm Springs)
[仕入れ担当]