映画「ステージ・マザー(Stage Mother)」

Stage Mother テキサスの田舎町で暮らす主婦が、サンフランシスコでゲイバーを経営していた息子を亡くしたことで、さまざまな人々と巡り会い、新たな生き方を見出していく物語です。「アニマル・キングダム」で悪党たちを支える母親を演じていたジャッキー・ウィーヴァー(Jacki Weaver)が、今回も社会のはみ出し者であるドラァグクイーンたちの精神的支柱となる役どころを演じます。

こう記しただけで何となくストーリーが想像できてしまうかも知れませんが、要するに息子と疎遠になった理由は、彼がテキサス的な価値観で暮らす両親とうまくいかなくてサンフランシスコに移住したから。息子の新天地であるサンフランシスコは、両親が暮らす世界とは価値観が大きく異なります。ジャッキー・ウィーヴァー演じる保守的な老夫人メイベリンは、葬儀をきっかけに今まで知らなかった息子の世界に飛び込み、異質な世界と関わっていくことになります。

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この異質な世界の中心となるのが、息子が経営していたゲイバーで働くドラァグクイーンたちで、映画は彼女たちのステージをふんだんに盛り込んで作られています。物語の展開が見えていても、ドラァグクイーンたちの軽口とユーモラスなショーのおかげで、最後まで楽しくご覧になれると思います。

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監督のトム・フィッツジェラルド(Thom Fitzgerald)自身もゲイであり、キャストやスタッフの多くがクィアやドラァグクイーンだそうで、ゲイバーの雰囲気など非常にリアルに仕上がっているとのこと。「タンジェリン」のマイア・テイラー(Mya Taylor)がチェリー役、有名ドラァグクイーンのジャッキー・ビート(Jackie Beat:別名Kent Fuher)がダスティ役で出演している他、メイクや衣装も実際にゲイバー等で仕事をしている人が担当しているそうです。

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そしてサンフランシスコでメイベリンを支えるシエナを演じるのがルーシー・リュー(Lucy Liu)。彼女の演技を見たのは「チャーリーズ・エンジェル」「キル・ビル」以来20年振りだと思いますが、ドラァグクイーンと同じくと差別される側であるアジア系シングルマザーを演じ、ゲイバーの面々とメイベリンを繋ぐ役割を果たします。

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物語はテキサスの片田舎で生まれ育ち、教会の合唱隊でリーダーを務める保守的な女性メイベリンの元に息子の訃報が入るところからスタート。堅物の夫の反対を押し切って葬儀に参列した彼女は、同性愛者だった息子がサンフランシスコのカストロ地区(The Castro)でPandora Boxというゲイバーというかショーパブのような店を経営していたこと、オーバードースによる突然死のため遺書がなく、店の経営権は遺族であるメイベリンに移ることを知ります。

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息子のパートナーだったネイサンはメイベリンをすぐには受け入れませんが、シエナの仲立ちで接点を持つことができます。そして彼から聞いたのは、ゲイバーは経営不振なので閉めるしかないだろうということ。そこで彼女は独自の再建策を考えるのですが、その一つは口パクのステージをやめて実際にドラァグクイーンたちが歌うこと、もう一つはターゲット層を地域のゲイコミュニティから観光客に拡大することで、前者では彼女の合唱隊での経験を活かしていきます。

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ご想像の通り、ゲイバーの客入りは回復し、スタッフのすれ違いも解決していくわけですが、専業主婦としての従属的な立ち位置を脱し、経営者として采配を振るうようになったことでメイベリンの価値観が大きく変化していきます。またマイノリティであるゲイやアジア人と過ごしたことで、偏見を捨て、自分らしい生き方を模索するようになります。

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突き詰めていえばメイベリンの遅咲きの成長譚なのですが、ドラァグクイーンのショーやカストロ地区の街並み(主なロケ地はカナダのハリファックスだそうですが)を素材にしたことで、自由な感覚に溢れた楽しい映画になっています。プロデューサーとして「キッズ・オールライト」のJ・トッド・ハリス(J. Todd Harris)が参加している影響もあるかも知れません。

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こういうご時世ですから、皆さん、気持ちよく笑いたいのでしょう。ゲイ・カルチャーを扱った作品にしては映画館が混んでいました。本作がプレミア上映されたパームスプリングス映画祭では観客が歌い始めたそうですが、誰もがそういう気分になる映画です。私はしばらくの間、Total Eclipse of the Heart がアタマの中で渦巻いていました。

公式サイト
ステージ・マザーStage Mother

[仕入れ担当]