南米コロンビアの山岳地帯を舞台にした作品です。アレハンドロ・ランデス(Alejandro Landes)監督の2007年の「コカレロ」、2011年の「Porfirio」に続く3作目。「コカレロ」はボリビアで撮ったドキュメンタリー作品でしたが、「Porfirio」は本作と同じく、監督のルーツでもあるコロンビアで撮った劇映画だそうです。
ストーリーそのものはシンプルなものですが、撮影技術と映像の迫力には目を見張るものがあります。夜間の炎だけで撮影されたシーンの美しさもさることながら、ジャングルを駆け巡るシーンや激流に巻き込まれるシーンなど、あり得ないようなカメラワークが随所に見られます。また、設定やキャスティングに細かい仕掛けがあり、後で得心したり、考え込んでしまったり、ある種の深みを感じさせてくれる作品です。

タイトルの猿(Monos)というのは、映画の主役である8人の少年少女たちのコードネーム。映画の序盤で、楽しげにブラインドサッカーのようなゲームに興じる子どもたちが映りますので、彼らの夏休みを描いた映画と勘違いしそうになりますが、この子どもたちは反政府ゲリラで、身代金目的で人質にした白人女性を見張るという任務を帯びています。

ときおり、[伝令](Mensajero)と呼ばれる上司が来ては、彼らに厳しい肉体トレーニングを課し、人質のビデオを撮って帰りますが、それ以外のときは、自主的な訓練をしたり、普通の子どものように遊んだりして過ごしているようです。8人のゲリラの構成は、リーダーの[狼](Lobo)、2番手の[ビッグフット](Patagrande)、[ランボー](Rambo)、[犬](Perro)、[スマーフ](Pitufo)、[ブンブン](Boom Boom)と呼ばれる男子6人と、[レディ](Leidi)、[スウェーデン](Sueca)と呼ばれる女子2人。人質の本名はサラ・ワトソンですが、ここでは[博士](Doctora)と呼ばれています。
ある日のトレーニングの後、[伝令]に対し、[狼]と[レディ]が“男女の関係”の許可を申請します。彼らの組織や規律がどうなっているのかわかりませんが、あっさり許可が出て、その後、全員で2人のためのベッドを作ってあげたりします。

また[伝令]は帰り際に一頭の乳牛を託していきます。[シャキーラ]という名前(コロンビアの至宝ですね)のその牛は支援者から借りているものなので、ミルクを絞って大事に飼育するようにという指示。人里離れた山奥(ロケ地はチンガサ国立公園:Parque Nacional Natural Chingaza)で暮らすゲリラにとって、食糧は何より大切ですし、反政府ゲリラにとって支援者は政治的生命線です。

[狼]と[レディ]の結婚祝いでしょうか。全員で酒を飲み、彼らが酔っ払って騒いでいる最中に、[犬]が誤って[シャキーラ]を射殺してしまいます。とりあえず、地面に独房代わりの穴を掘って[犬]を入れ、解体した牛肉をみんなで分け合って食べますが、問題は[伝令]への報告です。みんなが頭を悩ましている傍らで、責任を感じたリーダーの[狼]が銃で自殺してしまいます。

そこで残った7人は、話し合いの末、[狼]が[シャキーラ]を殺して自殺したと報告することに決めます。[犬]を守るためとはいえ、忠誠を誓っている組織を欺すわけですから、心中穏やかではありません。結果的にはその嘘がうまく通じ、新たなリーダーとして[ビッグフット]が任命されます。

その後、彼らの基地が攻撃を受け、人質を別の場所に移送するように命令されます。ジャングルの中(ロケ地はサマナ・ノルテ川沿い:Río Samaná Norte)を移動するわけですが、その途中の野営地で[博士]が逃走します。結局、[博士]は確保されるのですが、これをきっかけに、組織への嘘でくすぶっていたグループ内の意識のズレが表面化していき、次々と問題が生じていくことになります。

冒頭に記したように、素晴らしい映像と音響、緊張感ある展開で楽しませてくれる作品ですが、惜しむらくはこれがラテンビート映画祭での特別上映であること。サンダンス映画祭はじめいくつかの賞を受賞していますので、そのうちDVDやBDでリリースされるかもしれませんが、やはり映画館の大スクリーンで集中してみないと堪能できないのではないかと思います。

出演者で知名度があるのは、おそらく人質の[博士]を演じたジュリアンヌ・ニコルソン(Julianne Nicholson)だけでしょう。「8月の家族たち」で次女、「ブラック・スキャンダル」でコノリーの妻、「アイ、トーニャ」でコーチでを演じていた米国人女優です。

ゲリラ役の少年少女たちはオーディションで選ばれた素人だそうですが、ちょっとネタバレしてしまうと、坊主頭の[ランボー]を演じたのはソフィア・ブエナヴェントゥーラ(Sofia Buenaventura)という女性で、2019年8月のインタビュー時はサンティアゴ・デ・カリ在住でバジェ大学(Universidad del Valle)に通う学生だと紹介されていました。もし映画で設定された役柄が男の子のように振る舞う女の子だとすると、途中のキスシーンや印象的なエンディングなどさまざまな場面の意味合いが違ってくると思います。

公式サイト
Monos
※追記:2021年に「MONOS 猿と呼ばれし者たち」のタイトルで劇場公開が決まりました
公式サイト
MONOS 猿と呼ばれし者たち
[仕入れ担当]