デプレシャン監督の「クリスマス・ストーリー」はクリスマスで集まった家族が、それぞれ内に秘めていた思いをぶちまけて衝突する映画でしたが、この「8月の家族たち」も似たコンセプトで作られた作品です。老父の失踪で実家の母親のもとに集まった三姉妹を中心に家族が繰り広げる物語。ポスターの屋根が開いてしまった家のように、さまざまなことが飛び出してきます。
原作は2008年のトニー賞を受賞したトレイシー・レッツ(Tracy Letts)の戯曲です。映画用の脚本も同氏が手がけ、ジョージ・クルーニーと、ワインスタイン・カンパニーのハーヴェイ・ワインスタイン、ボブ・ワインスタイン兄弟のプロデュースで制作されました。ちなみにトレイシー・レッツは男性(1965年生まれ)です。
物語の軸になるのはメリル・ストリープ(Meryl Streep)演じる母親バイオレットと、ジュリア・ロバーツ(Julia Roberts)演じる長女のバーバラ。この2人は今年のアカデミー賞にもノミネートされていましたが、何よりもメリル・ストリープの演技力と存在感に圧倒されます。このところ単調な演技が目立ったジュリア・ロバーツも、抑え気味に演じたおかげか、うまく役にはまっています。
舞台となるウェストン家があるオーセージ郡(Osage County)は、オクラホマ州北部の田舎です。ご存じの方も多いかも知れませんが、オクラホマ州というのは全米のインディアンを強制移住させるために作られた州ですので、現在でも原住民の保留地が多いところ。この映画のオープニングで、これから失踪することになるバイオレットの夫、ベバリーが、妻の身の回りの世話をする住み込みメイドを雇いますが、彼女もシャイアン族の出身です。
その後、長女バーバラに「家にはインディアンがいるし」と不快感を顕わにするバイオレットに対し、バーバラが「ネイティブ・アメリカン」と言うようにたしなめると、私だって生まれつきアメリカ人だし、昔から住んでたというのならティラノサウルス(恐竜)だってネイティブ・アメリカンだと反論するなど、随所に土地柄に絡めた台詞が織り込まれています。
メイドを雇ったことで癇癪を起こした妻バイオレットを残してベバリーが失踪し、近所に住むバイオレットの妹マティ・フェイから連絡を受けた長女バーバラと夫のビル、14歳の娘ジーンがバイオレットの家にやってきます。
独身のままこの地で暮らす次女のアイビー、オクラホマを離れてふらふらしている三女のカレンも家に集まります。いつも男性関係のトラブルを起こしているカレンは、フェラーリに乗ったフィアンセ、スティーブを同伴。
湖でベバリーの遺体が見つかり、マティ・フェイの夫チャーリーを含む一族はそのまま葬儀に……。
葬儀の後、マティ・フェイとチャーリーの息子リトル・チャールズが遅れて到着したあたりから、バイオレットの口撃が始まります。これまで隠されてきたことが俎上にあがり、表面化しなかった家族の問題が明らかになっていきます。
舞台劇が原作というだけあって、会話の面白さが抜群です。特にメリル・ストリープとジュリア・ロバーツが繰り広げる口論は抱腹絶倒のおかしさ。これを、ジュリエット・ルイス(Juliette Lewis)が三女カレンの浮薄さ、ジュリアンヌ・ニコルソン(Julianne Nicholson)が次女アイビーの煮え切らない感じを強調したキャラクターで支えます。
この他、ベバリーを演じたサム・シェパード(Sam Shepard)、ビルを演じたユアン・マクレガー(Ewan McGregor)、リトル・チャールズを演じたベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)といった人気俳優の他、チャーリ役に「アメリカン・ビューティー」のクリス・クーパー(Chris Cooper)、スティーブ役に「イノセント・ガーデン」「スティーヴ・ジョブズ」のダーモット・マローニー(Dermot Mulroney)、ジーン役に「リトル・ミス・サンシャイン」のアビゲイル・ブレスリン(Abigail Breslin)を配した豪華キャストも見所でしょう。
結局のところ、家族って厄介!というシンプルなお話なのですが、力のある役者を揃え、脚本をよく練り上げると、これだけ素晴らしい作品になるというお手本のような映画です。
公式サイト
8月の家族たち(August: Osage County)
[仕入れ担当]