映画「マイ・サンシャイン(Kings)」

00 1992年のロサンゼルス暴動を背景に、L.A.のサウスセントラル地区で暮らす家族の日々を描いた作品です。監督はデビュー作「裸足の季節」が高く評価され、トルコ語の作品ながらアカデミー賞外国語映画賞のフランス代表に選ばれたデニズ・ガムゼ・エルギュベン(Deniz Gamze Ergüven)。本作は彼女が高等映画学校(La Fémis)卒業時から温めてきた企画だそうで、「裸足の季節」の成功により、10年以上かかってようやく日の目を見ることになりました。

幼い頃にトルコからフランスに移住したこの監督、2005年のパリ郊外暴動を経験し、L.A.暴動と通じるものを感じたそうです。その国で育ちながら、よそ者として母国から拒絶される居場所のない感覚。パリの変電所で感電死したアフリカ系の青年たちも、L.A.暴動のきっかけとなったラターシャ・ハーリンズやロドニー・キングも、差別される側でければ悲惨な最期を迎えずに済んだことでしょうし、大規模な暴動に発展することもなかったでしょう。

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映画のはじまりは、ラターシャ・ハーリンズ事件の再現。15歳の黒人少女が食料品店で万引きの疑いをかけられ、店主である韓国系女性に射殺された事件です。店主は正当防衛を主張したものの、出入口に向かう少女の後頭部を銃撃していることが明らかになり、故意の殺人と認定されましたが、なぜか判決は5年間の保護観察という軽微なものになります。

続いてロドニー・キング事件のニュース映像が流れます。47歳のロドニー・キングが警官に車から引きずりおろされ、路上で激しい暴行を受けた事件で、たまたま近所の住民が一部始終をビデオ撮影していたことから、TVを通じて米国中の人々が事件を目撃にすることになります。

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この二つの事件が、日頃から鬱憤がたまっていた黒人たちの怒りに火を点け、L.A.暴動に繋がっていくのですが、暴動の中心となったサウスセントラル地区は1965年にもワッツ暴動があった古くからの黒人居住エリア。また、新たにヒスパニックや韓国系の住民が流入してきて、人種間の緊張も高まっていたようです。

L.A.南部コンプトンを舞台にした映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」に出てきたアイス・キューブも、独立後の1991年に発表したアルバムで、あからさまに韓国系を威嚇しています。要するに、黒人の少年少女を万引き予備軍として見るんじゃない、黒人の拳に敬意を払わないと店を燃やしてやるという歌なのですが、実際、L.A.暴動の際には多くの韓国系商店が焼き討ちにあったようです。

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そんな時代に、そんな街で暮らすミリーは、家族と暮らせない子どもを引き取り、愛情を持って育てている黒人女性。どうやらパウンドケーキを焼いて食料品店に卸すことで生計を立てているようで、彼女が留守にしている間は長男と思われる高校生ジェシーが幼い子どもたちの面倒を見ています。

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あるとき、母親が逮捕されて家族がいなくなったウィリアムを家に受け入れます。他の子どもたちとは異なる過激な考え方と、若干の素行問題があるウィリアム。特に世代が近いジェシーとは関係が微妙です。そこに、ジェシーが惹かれている黒人少女ニコールが加わり、さらに関係が難しくなるのですが、ジェシーは何とかうまくやろうと努力しています。

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そしてL.A.暴動が勃発します。暴動に加わろうとするウィリアムと引き留めようとするジェシー。TVで略奪を見て、自分たちも欲しいものを取ってこようとモールに向かう幼い子どもたち。子どもたちの安全を守ろうと奔走するミリー。大きな波のうねりの中、それぞれが動き回り、巻き込まれていく様子が描かれていきます。

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ミリーを演じたのは、最近では「キングスマン: ゴールデン・サークル」に出ていたハル・ベリー(Halle Berry)。上手な女優さんですね。ただ、本作に限ってはそれが裏目に出ていて、本当は子どもたちが主役なのに、彼女が目立ちすぎて焦点がボケてしまいました。隣人の白人男性オビーとのロマンスも余計な感じです。オビー役を「007」シリーズのダニエル・クレイグ(Daniel Craig)が演じていますので、彼ら2人の見せ場を作るようにプロデューサーから求められたのかも知れません。

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ジェシー役のラマー・ジョンソン(Lamar Johnson)、ウィリアム役のカーラン・ウォーカー(Kaalan Walker)、ニコール役のレイチェル・ヒルソン(Rachel Hilson)もリアリティがあって良かったと思いますし、リース・コディ(Reece Cody)はじめその他の子どもたちも活き活きと演じていて、この監督らしさが出ていたと思います。次は「裸足の季節」のような有名俳優なしの作品を撮って欲しいものですね。

米国ではいつまでたっても人種問題がすっきりしませんが、最近は欧州でも同じ状況になりつつあります。監督は今のパリ暴動をどう見ているのでしょうか。

公式サイト
マイ・サンシャインKings

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