このところ米国インディペンデント映画界を席巻している新興スタジオのA24。今年も「聖なる鹿殺し」「フロリダ・プロジェクト」「レディ・バード」といった興味をそそる作品が日本公開されましたが、それに続く本作は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のケイシー・アフレック(Casey Affleck)と「キャロル」「ローズの秘密の頁」のルーニー・マーラ(Rooney Mara)を主役に据えた不思議な映画です。
監督はデヴィッド・ロウリー(David Lowery)。私はこの監督の作品ははじめてですが、彼が脚光を浴びることになった「セインツ – 約束の果て -」でもケイシー・アフレックとルーニー・マーラが共演しているそうです。
物語は、愛し合う2人がダラスのはずれにある家で暮らし始めたところからスタート。その家を気に入っている男“C”と、あまり気に入っていない女“M”の意識のズレが示され、どう展開するのかと思っていると、Cが自動車事故であっけなく死んでしまいます。
病院の遺体安置室でシーツをめくり、Cの顔を見て立ち尽くすM。看護婦を遠ざけてしばらくCを眺めた後、シーツを被せて静かに去って行きます。この場面は1カットの長回しで撮られているのですが、遺体しかない安置室をそのまま映していると、ふいにCが起き上がり、シーツを被った状態で病院の通路を抜けて外に出て行ってしまいます。
この目の部分に穴の空いたシーツを被ったゴーストこそ、本作の主人公です。どうやら普通の人からは姿が見えないようで、病院の通路を抜けても、ほとんどの人は何の素振りも見せません。車いすの老人が一瞬、反応するだけです。
家に戻ったゴーストは、一人きりになったMの傍らに立ち、彼女を眺めています。大家だか友人だかが届けてくれたパイをひたすら食べまくるM。このシーンも1カットの長回しで撮られていて、ただ食べ続けるだけで悲しみを表現するルーニー・マーラの演技は圧巻です。
ここまで読んでおわかりのように、この映画の主役たちには名前がなく、クレジットでCとMと表示されるだけ。他の大人たちの名前も出てこなかったと思いますが、唯一、ヒスパニックのシングルマザーの息子カルロス、その妹ヤスミナだけが会話の中で名前が呼ばれます。
そのヒスパニックの母子は、一人になったMが引っ越した後、この家に入居してくる家族です。ゴーストは、Mに対する思いが強すぎて家に帰ってきたのかと思いきや、まだこの家に住み着いていて、ラテン系らしくしょっちゅう食事しているこの母子を眺めています。そして、なぜかカルロスとヤスミナにはゴーストの姿が見えるようです。その存在に気づいた子どもたちは怯えますが、母親には何も見えません。
また、このゴーストは亡くなったCの変わり身なのかと思いきや、実はその他にもいっぱいゴーストが出てきます。どうやら地縛霊のような存在らしく、それぞれの土地に、それもかなり昔から憑いているようです。西部開拓時代の風景を挟み込むことで、監督は何かを伝えたかったようですが、私にはよくわかりませんでした。
ということで、理屈で解釈するのではなく、感覚で楽しむ映画だと思います。抽象的な、言い換えれば思わせぶりな映像を積み上げて、人間を超越する存在について語りかけてくる作品。映像の四隅が丸まっているのも何らかの意図が隠されているのかも知れません。個人的には、ふわっとした印象だけが残りました。
公式サイト
ア・ゴースト・ストーリー(A Ghost Story)
[仕入れ担当]