ガエル・ガルシア・ベルナル(Gael García Bernal)主演のスペイン語映画です。
監督はこれが長編2作目というホナス・キュアロン(Jonás Cuarón)。「天国の口、終わりの楽園。」の監督アルフォンソ・キュアロン(Alfonso Cuarón)の息子で、その弟である「ルドandクルシ」の監督カルロス・キュアロン(Carlos Cuarón)の甥です。父親が監督した「ゼロ・グラビティ」には脚本で参加しています。
メキシコ映画の重鎮である父親と叔父がプロデュースし、彼らとも関係が深いガエル・ガルシア・ベルナルが主演していることからも、多分に七光り的な背景を持つ作品だとわかります。
物語もシンプルで、メキシコから米国へ密入国を図った一団が、1人の男から銃撃されて逃げ惑うというもの。ある意味で「ゼロ・グラビティ」と似た着想とも言える、極限状況で繰り広げられるサバイバル映画です。違うのは宇宙空間ではなく砂漠だということで、原題もシンプルに“砂漠”というスペイン語の一語になっています。
映画の始まりは、荷台に15人の男女を積んだトラックが砂漠を走ってくるシーン。ふいに停車し、エンジンが故障していることがわかります。そこから歩いていくしかないのですが、密入国業者の若い方の1人が、砂漠は危険だからと躊躇するのを押し切って、皆で鉄条網を潜ります。
2人組の密入国業者のうち、中年の方を演じているのはマルコ・ペレス(Marco Pérez)というメキシコ人俳優で、その昔「アモーレス・ペロス」に出ていたそうです。若い方はディエゴ・カターニョ(Diego Cataño)といって、この監督の長編第1作目「Año uña」でも主役を務めた盟友とのこと。ちなみに「Año uña」の主演女優エイリン・ハーパー(Eireann Harper)はホナス・キュアロン監督と結婚して一児の母となっており、本作ではアソシエイト・プロデューサーとしてクレジットされています。
15人が果てしなく広がる砂漠地帯を越えていくことになるのですが、遅れた1人を待ってあげた4人、つまり5人だけが置いて行かれる状況になります。遅れた1人を励ましていると、ふいに銃声が響き、砂漠の真ん中を歩いていた先行グループの1人が倒れます。そして次から次へと銃撃され、全員が射殺されてしまいます。
1人の男が丘の上から狙撃しているとわかった5人は、直接狙われないように岩場に逃げ込みます。ここで恐いのは、誰が何のために銃撃しているかわからないこと。少なくとも、不法移民を捕らえようとしている警察や軍ではなさそうです。ということは、手を挙げて出て行っても、問答無用で撃たれる可能性が高いわけで、岩影に隠れながら逃げ延びるしかありません。
しかし、敵は男だけではありませんでした。男はトラッカーと名付けられたジャーマン・シェパードを飼っていて、これが忠実に獲物を追うだけでなく、獲物を捕らえたり、とどめを差すこともできる犬なのです。
早速1人が犠牲になり、岩場でもう1人が撃たれ、ガエル・ガルシア・ベルナルが演じるモイセス、ディエゴ・カターニョが演じるメチャス、そしてアロンドラ・ヒダルゴ(Alondra Hidalgo)が演じる紅一点アデラの3人が追われることになります。
追う側の男、サムを演じたのは、TVドラマの「グレイズ・アナトミー」や「ウォーキング・デッド」で知られる他、映画「ウッドストックがやってくる!」にも出ていたジェフリー・ディーン・モーガン(Jeffrey Dean Morgan)。悪態をつく以外、ほとんど語らない難しい役を違和感なく演じています。
観客の興味は、唯一のスターであるガエル・ガルシア・ベルナルが生き延びるか否かの一点に集約されますから、話を拡げにくい映画なのですが、淡々と追い続けるジェフリー・ディーン・モーガンの姿に不思議な説得力があるおかげで、単調にならず、緊張感を保ったまま1時間半弱を引っ張っていきます。
恐怖の追いかけっこを繰り広げながら、うっすらと登場人物の背景を滲ませていく作品です。宣伝では、米国大統領に絡めて政治的なにおいを醸していますが、ほとんど政治色を感じさせません。何も考えず、シンプルなスリラーとして楽しんだ方が良さそうです。
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ノー・エスケープ 自由への国境
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