マイケル・ウィンターボトム(Michael Winterbottom)監督といえば「日蔭のふたり」や「ひかりのまち」といった内省的な作品を創るイメージがありますが、本作は「メイジーの瞳」「あなたを抱きしめる日まで」といった映画で活躍しているスティーヴ・クーガン(Steve Coogan)と、人気コメディアンのロブ・ブライドン(Rob Brydon)を主役に据え、TVシリーズとして製作された明るく陽気な作品です。
イタリアの風光明媚な景色と陽光の中で、軽口を叩き合いながら美食に舌鼓を打つ中年男性2人旅。どちらも芸達者な人気者ですので、気軽に楽しめる1本です。と、話を進めたいところですが、ちょっとした問題が・・・。
テレグラフ紙のレビューにも「非英国人には冷たいという評判も」と書かれていましたが、元々がTV番組ですので、コメディといっても笑いのツボが英国ローカルなのです。
まず、本作は2010年に英国北部を舞台に同じキャストで放映されたTVシリーズ「The Trip」の続編だということ。それを知らないと、たとえばゴッドファーザーのパート2は成功した云々の会話など意味不明です。
また、この旅の背景にあるテーマが、中世の詩人バイロンとシェリーのイタリア旅行で、この稀代の放蕩者たちのイメージがないと、なぜ冒頭から女性にモテることを語り始めるのか、なぜ女性関係のトラブルを焦点にした内容になっているのか、ピンとこないと思います。
そして、これが最も重要なポイントなのですが、本作のコメディ的な要素、笑わせる芸が2人のモノマネだということ。ロブ・ブライドンはことあるごとにヒュー・グラントの口調で語りますし、唐突にマイケル・ケインやクリスチャン・ベイルやトム・ハーディーといった「ダークナイト ライジング」の出演者のモノマネが飛び出したりします。
アンソニー・ホプキンスやピアース・ブロスナンといった英国人俳優だけでなく、ウッディ・アレンやクリント・イーストウッドといった有名俳優のモノマネが随所で登場。その上、空想の場面で「ゴッドファーザー」が引用されたり、「ローマの休日」から「食べて、祈って、恋をして」までさまざまな映画を絡めた会話をしますので、元ネタがわからないと置き去りにされた気分になるでしょう。実際、私が観たBunkamuraル・シネマでは、ほぼ満席だった内の3組が上映中に出て行きました。
逆に、よく映画を観ている人にとって彼らの軽妙な会話は笑いどころ満載だと思いますし、ある程度、ネタが理解できれば、イタリアの美しい風景と美味しそうな料理が短所を補い、楽しい気分で映画館を後にできると思います。
2人の旅はピエモンテ州からスタート。トラットリア・デッラ・ポスタ(Trattoria della Posta)でバーニャカウダやら玉葱のローストやら食べまくり、喋りまくります。ここではスティーヴは飲みませんが、ロブは地元名産のバローロを注文。どうやらエリオ・グラッソ(Elio Grasso)のようです。
初日のホテルはカモーリのチェノビオ・デイ・ドージ(Il Cenobio dei Dogi)。翌日はポルトフィーノ岬のラ・カンティーナ(La Cantina)で魚介を満喫し、晩はサン・フルットゥオーゾのダ・ジョバンニ(Da Giovanni)。アラニス・モリセットをBGMにミニクーパーの2人旅は続きます。
3日目はトスカーナに下ってヴォルテッラのトラットリア・アルバーナ(Trattoria Albana)からピエヴェスコラのラ・スヴェーラ(La Suvera)へ。4日目はローマに入り、ドイツ人シェフのリストランテ・オリヴェル・グロービッグ(Ristorante Oliver Glowig)で二つ星の料理を堪能してホテル・ロカルノ(Hotel Locarno)に投宿。
5日目はさらに南下して、ソレント半島のルレ・ブルー(Relais Blu)で昼食をとり、ラ・ヴェッロのヴィラ・チンブローネ(Villa Cimbrone)に泊まります。そして最終日はカプリ島のイル・リッチョ(Il Riccio)といった具合。最高のグルメ旅ですね。
映画館を出た後、イタリア料理欲が高まって苦しいほどでした。
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