去年のアカデミー賞で注目を集めた「ダラス・バイヤーズ・クラブ」のカナダ人監督、ジャン=マルク・ヴァレ(Jean-Marc Vallée)の2011年の作品です。つまり「ダラス・・・」の前作。ようやく日本でも公開されました。
なぜ今まで公開されなかったか、もちろん本当の理由はわかりませんが、おそらく、観客を選ぶタイプの映画だからだと思います。
1つは時間軸の問題。2つの異なる時代を舞台にした個別の物語を並べて描く作品なのですが、それぞれの時代にも時間の経過があって、こういう映画を見慣れていないと、こんがらがってしまいそうです。
その上、2つの物語を束ねる仕掛けが細かい部分(たとえば下の写真のバトー・ムッシュに手を振るシーン)に紛れ込んでいますので、しっかり観ていないと気付かないうちに流れていってしまい、2つの物語の繋がりが理解できません。
そしてもう1つはスピリチュアル系の要素が強いこと。これは2つの時代が描かれている理由でもあるのですが、輪廻転生の考え方がベースにあり、加えてツインソウルへの言及もあります。要するに、ちょっとニューエイジっぽい。北米では普通なのかも知れませんが、日本では新興宗教のイメージ(浄化とか水晶とか)が強いので微妙なところです。
とはいえ、このジャン=マルク・ヴァレ監督、次作「Wild」が好評ですよね。シェリル・ストレイド(Cheryl Strayed)の話題作を、小説家のニック・ホーンビィ(Nick Hornby)が「17歳の肖像」に続いて脚色しているわけで、これは観ないわけにはいかなそうな1本。ということで、この「カフェ・ド・フロール」も、映画好きならおさえておいた方が良さそうな気がするのですが、いかがでしょうか?
この映画の物語は、上に記したように、2つの時代それぞれ独立して構成されています。1つは現代カナダを舞台にしたお話。
DJのローランは、昔から付き合っていていたキャロルと結婚して2人の娘に恵まれますが、その後、ローズと出会い、キャロルとは別居します。
ローランはローズと出会えて幸福そのものですが、キャロルは魂が繋がっていると信じていたローランとの破局から立ち直れません。精神的に疲弊し、幻覚をみたり、夢遊病のような症状が現れます。
もう1つは、1960年代パリを舞台にしたお話。美容院で働くシングルマザーのジャクリーヌには、ダウン症の息子、ローランがいます。
生活は大変そうですが、息子を施設に入れたりせずに普通の学校に通わせ、懸命に生きています。そこまで頑張れるのも、ひとえにローランとの絆の強さを信じているから。
ですから、ローランが小学校で出会ったダウン症の少女ヴェラと惹かれ合い、離ればなれになることを強く拒絶する様子に衝撃を受けます。
ローランとヴェラの関係、つまり障碍のある男の子と女の子の親密な関係は、学校でも問題になりますが、理屈が通る子どもではありませんので、どれほど言い聞かせても受け入れる可能性はありません。
次第に追い込まれていくジャクリーヌ。関係は異なりますが、これも魂が繋がっていると信じていた相手との破局です。
このジャクリーヌを演じたのがバネッサ・パラディ(Vanessa Paradis)。こういうタイプの女優さんだとは知りませんでしたが、とてもリアリティがある素晴らしい演技でした。一見の価値ありです。
ローラン役のマラン・ゲリエ(Marin Gerrier)、ヴェラ役のアリス・デュボア(Alice Dubois)は、ともにダウン症の児童ですが、特にマラン・ゲリエの演技には驚愕します。「チョコレートドーナツ」のアイザック・レイバも衝撃的でしたが、欧米にはこういう子役がちゃんと存在するのですね。彼らに機会を与えている諸制度にも、その機会をうまく活用する制作者側にも感心します。
アントワーヌを演じたケヴィン・パラン(Kevin Parent)の本職はミュージシャンだそうで、これが映画初出演。ローズ役のエヴリーヌ・ブロシュ(Evelyne Brochu)は「トム・アット・ザ・ファーム」で恋人のフリをするサラを演じていた人です。
そしてキャロルを演じたエレーヌ・フローラン(Hélène Florent)。現代カナダのパートは、彼女の演技力に支えられているといっても過言でないほどの熱演でした。
映画で使われている音楽もポイントです。2つの時代をつなぐ曲として映画のタイトルにもなっている“Café De Flore”を提供したマシュー・ハーバート(Matthew Herbert)をはじめ、シガー・ロス(Sigur Ros)、ピンク・フロイド(Pink Floyd)、ザ・キュアー(The Cure)、ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)などからこだわりの選曲(一覧はこちら)。ご覧のとおり、これまたニューエイジっぽい方向性ですので、好みの問題もあるかと思いますが、映画の世界観とぴったりあっていてとても素敵でした。
公式サイト
カフェ・ド・フロール(Café de Flore: Unifrance)
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