映画「トルーマン・カポーティ 真実のテープ(The Capote Tapes)」

Capote カポーティを知る人たちへのインタビューと評伝の著者であるジョージ・プリンプトン(George Plimpton)の取材テープ、さまざまな記録映像を通じて、稀代の人気作家の生涯に迫るドキュメンタリーです。大枠では、未完の小説「叶えられた祈り」の謎を解いていく流れになっていますが、結論は導かれません。映画のキャッチコピーでいう“誰もが一度は会いたいと願うが、一度会えば二度と会いたくない男”の魅力を、無数の証言を使って立体的に見せていく映画といった方が良いでしょう。

さまざまな人々がインタビューに答えていますが、最も重要なのは義理の娘であるケイト・ハリントン(Kate Harrington)の証言。彼女の父親がカポーティのマネージャーから恋人になったフランクリン・ハリントンだそうで、二人の破局後もカポーティと一緒にマンハッタンで暮らし、いちばん身近に接していた人物です。数少ない信頼できる家族といったところでしょう。

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よく知られているように、彼の母親は幼いトルーマンを親族に託してNYに出奔、実業家と再婚して息子を呼び寄せますが、社交界に出入りする暮らしの果てに自ら命を絶ってしまいます。その母親と、幼少期のトルーマンの世話をした叔母たちが彼の人格形成や作風に大きな影響を与えたといわれていますが、ケイト・ハリントンはその影響を見届けた側の女性です。

社交界への憧憬と嫌悪をないまぜにしたセレブの顔と、背の低さにコンプレクスを抱き続けたゲイの顔、そして従姉のクッキー缶を最後まで大切に持っていた無垢な顔を、彼女の語りを通じて紐解いていきます。

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彼女自身もカポーティのコネでソーシャライトのC・Z・ゲストと会い、その紹介でダイアナ・ヴリーランドのアシスタントを務めたことを足がかりにして、映画の衣装担当として独立しています。といっても、2003年に映画監督のジョン・マクティアナンと結婚し、彼の盗聴や偽証にかかわる一連の事件を経て2012年に離婚していますので、順風満帆の人生というわけでもなさそうです。

彼女とともに、何度も登場して映画の軸となる証言をするのが、作家のジェイ・マキナニー(Jay McInerney)と、TV司会者のディック・キャベット(Dick Cavett)。久しぶりにジェイ・マキナニーを見たと思ってぼんやりしていたので、彼の発言だったか曖昧ですが、酒とドラッグに溺れたカポーティがその感覚を”haze of pain”と表現したのは、さすが天才作家だと言っていたことは記憶に残りました。

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その他、カポーティのソファーを買ったというファッションエディターのアンドレ・レオン・タリー(André Leon Talley)、ハーパーズ誌の編集者だったルイス・ラファム(Lewis Lapham)、テネシー・ウィリアムズの恋人だった作家ドットソン・レイダー(Dotson Rader)、批評家のセイディ・スタイン(Sadie Stein)、作家のサリー・クイン(Sally Quinn)や「ブルックリン」の作者コルム・トビーン(Colm Tóibín)などの証言や、ノーマン・メイラーなどの録音テープ、予告編にも使われているジョニー・カーソン(Johnny Carson)ショーのTV映像などを交えて映画が展開して行きます。

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監督はこれがデビュー作というイーブス・バーノー(Ebs Burnough)。彼の視点は、カポーティ自身の生い立ちを題材にして自らのポートレートで裏表紙を飾った「遠い声 遠い部屋」、ヒロインに母親の姿を反映させた「ティファニーで朝食を」はスキャンダラスなだけだったが、殺人事件を題材にしたノンフィクションでありながら必要以上に犯人に入れ込んでしまった「冷血」は彼の心を深く蝕んだだろうということがひとつ。

そして、母親を魅了し、自滅させた社交界に対する複雑な思いに捕らわれたというのがひとつ。未完の小説「叶えられた祈り」の一部を公表したことで、カポーティが敬愛した社交界の女性(スワン)たち、中でも“唯一の欠点は完璧であること”と彼に言わしめたベイブ・ペイリー(Babe Paley)が離れていき、心の拠り所を失って絶望したということがひとつ。

「冷血」の件は彼のセクシャリティと密接であり、ベイブ・ペイリーの件と母親の件は彼の孤独な精神と密接に関係していて、そのどちらもがカポーティの作品の根幹を成すものです。そのあたりに監督の考えが込められているのかも知れません。

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インタビューと記録映像だけの作品ですが、伝説のパーティー「黒と白の舞踏会」や60年代のサブカルチャー、スタジオ54をはじめとする70年代のクラブシーンがテンポよく取り込まれていますので、観ていて退屈することはないでしょう。予想以上に面白い作品でした。

公式サイト
トルーマン・カポーティ 真実のテープ

[仕入れ担当]