この映画ブログ、1950年代のフランス、アメリカに続き、今回は1962年の英国を舞台とした2人の少女の物語です。
監督はサリー・ポッター(Sally Potter)。私が彼女の作品を観たのはティルダ・スウィントン主演の「オルランド」以来だと思います。そう、ヴァージニア・ウルフの風変わりな小説の映画化。寡作な監督ですが、もうかれこれ20年も前の作品なんですね。
主役のジンジャーを演じたのがエル・ファニング(Elle Fanning)。ソフィア・コッポラ監督の「SOMEWHERE」を観たときも記しましたが、まだ子どもだった「ドア・イン・ザ・フロア」出演時から彼女の演技には目をみはるものがあります。この「ジンジャーの朝」でも少女特有の儚さを見事に演じきっていて、これはもう彼女の映画といっても過言ではないでしょう。
そのジンジャーの親友役、ローザを演じたアリス・イングラート(Alice Englert)も、これが長編デビュー作ながら、きっちりと存在感を示していました。ちなみに彼女の母親は「ピアノ・レッスン」監督のジェーン・カンピオンで、父親はTVプロデューサー出身のコリン・イングラート。
物語のオープニングは、広島に落とされた原爆の映像。その1945年に英国の2人の母親が娘を出産します。それが原題になっているジンジャーとローザで、2人は姉妹のように一緒に成長していきます。
時代は飛んで米ソ冷戦時代。各国が競って核実験を行なっていて、1961年にはソ連が広島の3000倍という史上最大規模の水爆実験を実施します。そしてその翌年、米国と険悪だったカストロ政権のキューバにソ連が核ミサイルを配備。いわゆるキューバ危機ですが、米ソ双方の兆発が激化し、誰もが世界の終わりを意識した時代です。
ロンドン郊外で暮らす17歳の少女たち、ジンジャーとローザも反核運動に参加します。
男の子や飲酒に興味を持ったり、家族や将来に対する不安を抱えていたり、多感な年ごろの2人。いつも同じような服を着て、似たもの同士のようなジンジャーとローザですが、実は対称的な性格です。
自己の内面を突き詰めていくジンジャーと、外部に救済を求めるローザ。反核運動も、ジンジャーにとっては自分と世界を変えるための行動の一歩ですが、ローザにとっては不安定な自分が寄り掛かれる価値観の一つに過ぎません。
そんなとき、ジンジャーの両親が別居します。保守的な母親ナタリーの生き方を嫌い、自由を追い続ける父親ローランドの住居で暮らし始めるジンジャー。そしてローザもまた、そんなローランドの生き方に惹かれて急接近していきます。
ローランドがローザと関係を持ったことを知って傷つくジンジャーを精神的に支えるのが、アネット・ベニング(Annette Bening)演じるベラと、ティモシー・スポール(Timothy Spall)演じるマークといったインテリたち。
特にベラが、ローランドが求める自由の本質を喝破するあたりは、さすがサリー・ポッターの脚本といったところでしょうか。この監督ならでは展開で、アネット・ベニングにぴったりの役柄です。
サリー・ポッターらしい美しい映像と、繊細な心情描写、そしてエル・ファニングの名演技。東京ではちょっと不便な映画館でしか上映されていませんが、わざわざ観に行く価値のある映画だと思います。
公式サイト
ジンジャーの朝 さよならわたしが愛した世界(Ginger & Rosa)
[仕入れ担当]