こういった映画祭でしか出会えないタイプの作品だと思います。上映していることに気付かなかったり、気付いていても後回しにして、結局、見損ねてしまったりする作品。このような作品をきちんと紹介するところが、ラテンビート映画祭の素晴らしいところですね。
監督のロドリゴ・プラ(Rodrigo Plá)は小さな賞をいくつか受賞しているようですが、ほぼ無名と言って良いでしょうし、出演者も、主演のロクサーナ・ブランコ(Roxana Blanco)以外、ほぼ映画初出演といえる俳優ばかりです。
ウルグアイの首都・モンテビデオに暮らすマリアは、少しボケ始めた高齢の父親の介護をしながら、3人の子どもを育てているシングルマザー。縫い物の内職で一家の生計を支えていますが、仕事の発注先である工場にもリストラの噂があり、心やすまる暇もありません。
心身ともに疲弊しきったマリアは、父親の世話を福祉施設に委ねようとしますが、マリアの収入に父親の年金と子どもたちの児童手当を加えると、公的支援の対象となる所得を超えてしまうと言われてしまいます。何とか父親の世話から逃れたいという思いでマリアが選んだ方法は……、と続いていくお話です。
働きながら、介護と子育てを両立させていく苦悩という、身近なテーマに光を当てた作品ですので、特にドラマティックな展開があるわけではありません。マリアを演じたロクサーナ・ブランコと、その父アグスティンを演じたカルロス・バリャリノ(Carlos Vallarino)の真に迫った演技が、すべてと言っても過言ではないでしょう。
マリアの責任感が苛立ちとなって現れ、アグスティンの自尊心を少しずつ蝕んでいきます。周囲に高齢者がいる方なら誰でも体験する、そんなやるせない感覚を、身体の一部をクローズアップで写したり、表情の変化を丹念に追っていくことで、ひたすらリアルに描いていく映画です。
ウルグアイ映画というと「ウィスキー(Whisky)」しか観たことがありませんが、あのような寓話的な要素はありません。メキシコで実際にあったお話をベースに、ウルグアイに置き換えて構成しなおしたそうです。
最近、この作品がアカデミー賞の外国語映画賞のウルグアイ代表に選出されたというニュースがありました。地味な作品ですが、いろいろと考えさせられる部分の多い社会派ドラマです。
公式サイト(ラテンビート映画祭2012の紹介ページ)
マリアの選択
[仕入れ担当]