映画「マエストロ その音楽と愛と(Maestro)」

Maestro ブラッドリー・クーパー(Bradley Cooper)の長編監督第2作です。前作「アリー/ スター誕生」ではレディー・ガガの歌を楽しませてくれましたが、本作ではキャリー・マリガン(Carey Mulligan)の素晴らしい演技を堪能させてくれます。

タイトルの“マエストロ”とは指揮者で作曲家のレナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein)のこと。その人をブラッドリー・クーパー自身が演じ、妻フェリシア役をキャリー・マリガンが演じます。この夫婦を軸に展開する伝記映画ですが、本質的にはレナードに振り回されるフェリシアの苦悩がテーマであり、レナードは狂言回しのような役割を担うことになります。

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物語は二人の出会いから晩年までを時間軸に沿って辿っていきます。3人の子どもに恵まれ、結果的に最期まで添い遂げましたので、ある意味、強い信頼関係と絆で結びついた夫婦だったわけですが、話を複雑にしていたのがレナードが同性愛者だったこと。彼らが結婚した1951年当時はそれを公表できる時代ではなく、同性愛者の多くが便宜的な結婚生活を送っていました。

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この映画にも、彼らの娘が父に関するウワサを耳にして悩んでいたとき、フェリシアがレナードに対し、沈黙を守るように厳命するシーンが出てきます。相方が同性愛者であることを夫婦で隠し続けた時代なのです。

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レナードとフェリシアの特異点は、そういう夫婦でありながら、最期まで互いに愛し合っていたこと。レナードの放逸が終わることはありませんでしたし、それが原因で破局を招きそうになることもありましたが、最終的にフェリシアが譲歩して許します。こういった独特な愛のありようが映画の主題になっていて、キャリー・マリガンはそれを言葉にせず、表情で伝えます。彼女の技量あってこその映画でしょう。

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キャリー・マリガンは英国生まれの英国育ちですが、実際のフェリシアに似せて微かにスペイン語訛りのある英語で話します。フェリシアは東欧系米国人の父親とコスタリカ人の母親のもとコスタリカのサンホセで生まれ、チリの英国系修道院学校で教育を受けた人。21歳のとき米国に移住し、ブロードウェイで女優をしていてレナードと出会うのですが、そこまでの生活環境を考えると訛りを真似るのも一筋縄ではいかないことがわかります。

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また20代で出会った頃から晩年の50代まで特殊メークなしで演じ分けているのも特筆に値するでしょう。彼女の演技は「17歳の肖像」から観ていますが、観る度に驚きを与えてくれる俳優です。

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対するブラッドリー・クーパーの演技。「アリー/ スター誕生」を観たときのブログに“苦悩する役は似合わない”と記しましたが、そういう意味で今回は役作りし易かったのではないでしょうか。レナードのノンシャランな性格、フェリシアが抱え込んでいる辛苦を顧みず、好き放題する姿をブラッドリー・クーパーが自然に表現します。

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ただ監督と男優を兼務する難しさはあったと思います。たとえばイーリー大聖堂でマーラー交響曲第2番「復活」を指揮するシーン。何年も練習したそうで、実際の公演の記録映像に比べても見劣りしない真に迫った熱演でしたが、こういうところで演奏したという事実だけ伝えればよいところ、熱狂的にタクトを振るシーンが延々と続きます。レナードのワシ鼻に似せた付け鼻と並んで評価が分かれる部分だと思います。

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その他の出演者としては娘ジェイミー(Jamie Bernstein)役を「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」に出ていた、というよりユマ・サーマンとイーサン・ホークの娘といった方がわかりやすいかも知れませんが、マヤ・ホーク(Maya Hawke)が、レナードの妹シャーリー(Shirley Bernstein)役をサラ・シルバーマン(Sarah Silverman)が演じています。

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公式サイト
マエストロ その音楽と愛とMaestro

[仕入れ担当]