映画「ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY」

I Wanna Dance with Somebody 圧倒的な音域と音量の歌声で”The Voice”と讃えられたホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston)の生涯を描いた劇映画です。

アルバムの累計セールスが1億4000万枚といいますから、その数々のヒット曲を何度も耳にしてきましたが、彼女の私生活についてはボビー・ブラウンと結婚したこと、ドラッグ絡みで早世したことぐらいしか知りませんでした。まだ何人か関係者がご存命ですので、明らかにできなかった部分もあるでしょうが、これを観れば概ね彼女の人生がわかります。

監督は「ハリエット」のケイシー・レモンズ(Kasi Lemmons)。奴隷の逃亡を助け、女性参政権に向けて活動したハリエット・タブマンを主題にした前作と同じように、第一線で奮闘する黒人女性のスーパースターに光を当てていきます。

母親のシシー・ヒューストン(Cissy Houston)が歌手だったホイットニーは、小さい頃から母親の特訓を受け、バックコーラスを務めるなど歌唱力には定評があったようです。ニューヨークで母親と一緒にステージに上がっていたホイットニーに注目したアリスタレコードのA&R担当ジェリー・グリフィス(Gerry Griffith)が、社長のクライブ・デイビス(Clive Davis)に繋ぎ、歌を聞いたクライブは即決で契約を決めます。

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クライブがナイトクラブに来たとき、母親はホイットニーに“Greatest Love of All”を歌うように命じます。内面の美しさやプライドを持つことの価値を示し、もう誰かの影で生きることはしない、自らが信じるままに生きていくと、尊厳の大切さを歌う曲ですね。

5年前に観た「ありがとう、トニ・エルドマン」でも、主人公の父親が娘に自尊心を取り戻させようとこの曲を歌わせる場面(→Youtube)がありましたが、母親がホイットニーに歌わせたこの歌詞が、彼女の人生を描いていく物語の中で伏線のように効いてきます。

1983年4月、20歳を目前に契約を締結したホイットニー。父親のジョンと母親のシシーは法的に別居状態にありましたが、まだ婚姻関係は解消されておらず、そのせいか父親のジョンがホイットニーのマネジメントを取り仕切ることになります。これが後々に訴訟問題にまで発展し、彼女を苦しめることになります。

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そしてボビー・ブラウンとの結婚も彼女の人生に影を落とします。1985年のデビューアルバムから立て続けにヒットを放ち、1991年のスーパーボウルでの国歌斉唱を絶賛され、主演映画「ボディガード」でも成功を収めて名実ともにスーパースターに上り詰めたホイットニーでしたが、なぜかそのタイミングでダメ男に引っかかってしまうのです。

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映画「リスペクト」で観たように、アレサ・フランクリンも父親C・L・フランクリンと、その呪縛から逃れるために結婚したテッド・ホワイトの暴力に苦しみましたが、ホイットニーも同じ轍を踏んでしまうわけです。おそらくカソリックが教える男女の役割に囚われるあまり、泥沼にはまっていくのでしょう。ロビンとの関係も然りです。

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彼らの夫婦生活は2006年の離婚まで、関係を悪化させたり復縁したりしながら続きます。しかしこの間、スターとして成功し続けることへの重圧もあり、ホイットニーは麻薬に溺れていきます。クライブがジャニス・ジョプリンやジュディ・ガーランドの例を挙げて制止した甲斐もなく、母親の再三の介入も退けて日に日に薬物依存を悪化させていくのです。

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ホイットニーとボビー・ブラウンの間にはボビー・クリスティーナ・ブラウンという娘がいましたが、彼女も母親ホイットニーの死後、ほどなくして同じような最期を迎えることになります。

ただひとつ幸いだったのは、プロデューサーのクライブとはずっと良好な関係だったこと。多くのスターはプロデューサーと金銭的な問題を抱えて一悶着ありますが、ホイットニーはデビューから晩年まで信頼できるプロデューサーと仕事できたようです。もし薬物に侵されなければ、2000年代に入っても素晴らしい歌声を残していけただろうと思うと残念ですね。

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主役を演じたのは英国出身のナオミ・アッキー(Naomi Ackie)。彼女に寄り添うクライブ役で「ジャコメッティ 最後の肖像」「スーパーノヴァ」のスタンリー・トゥッチ(Stanley Tucci)、厄介者のボビー・ブラウン役で「ムーンライト」のアシュトン・サンダース(Ashton Sanders)が出ています。

公式サイト
ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODYWhitney Houston: I Wanna Dance with Somebody

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