映画「ウエスト・サイド・ストーリー(West Side Story)」

French Dispatch 1962年のアカデミー賞で作品賞、監督賞など10部門に輝いたミュージカル映画を、ここ最近「ブリッジ・オブ・スパイ」「ペンタゴン・ペーパーズ」などシリアスな人間ドラマを創っていたスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)がリメイクしました。

ご存じのようにマンハッタン島のウェストサイドで対立するポーランド系とプエルトリコ系の少年たちが繰り広げる物語です。わたし自身、子どものころTVでオリジナル版を観て何となくストーリーを知っていましたし、ジョージ・チャキリスがコンバースを履いた足を高く上げる写真は何度も見ていましたが、全体を通してきちんと観たのは初めてでした。

その感想はと言えば、マリアがあまりにも無茶苦茶、のひと言。名作といわれる昔の映画を観ると、荒唐無稽なご都合主義に驚かされることが多々ありますが、この物語もヒロインであるマリアの行動に無理があり過ぎて、もし新作として公開されていたらボロクソに言われそうです。

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とはいえ、ミュージカル映画ですからリアリティはあまり重要ではないでしょうし、マリアがあのような行動をとらなければ物語そのものが成り立ちませんので、余計な突っ込みはいれず、誰もが知る名曲の数々と、ふんだんにお金をかけて作り込まれた映像を素直に楽しむのが良さそうです。

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物語をおさらいすると、ポーランド系の白人少年で構成されるジェット団と、プエルトリコ系を主とする少年で構成されるシャーク団が縄張り争いを繰り広げる中、ジェット団のOBであるトニーがシャーク団のリーダーの妹であるマリアに恋をしてしまうというお話。ジェット団のリーダーでトニーの旧友であるリフ、シャーク団のリーダーでありマリアの兄であるベルナルド、その恋人アニータ、ベルナルドがマリアのパートナーにしようと思っているチノを中心に物語が展開していきます。

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少年たちの融和を目的に開かれたダンスパーティでトニーがマリアに一目惚れします。プエルトリコから移ってきたばかりのマリアもトニーに惹かれますが、敵対している相手ですから周囲は二人の関係を認めません。縄張り争いに決着をつける決闘にトニーとマリアの一件が絡み、ベルナルドがリフを刺し、それに怒ったトニーがベルナルドを刺してしまいます。兄のかたきにもかかわらず、なおもマリアはトニーと結婚したいと願い、それに対するアニータやチノの思いが交差してややこしいことになるという物語です。

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オリジナル版に忠実に創られているそうですが、時代性を鑑みていくつかの細かい調整が為されているようです。ひとつはキャステイングで、オリジナル版にはあまりプエルトリコ系の俳優が出ていないそうですが、本作のシャーク団はほぼラテン系の俳優たちが演じているとのこと。確かにギリシャ系のジョージ・チャキリスがベルナルド役というのは無理がありますね。

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その関係で彼らの日常会話はスペイン語で、白人は理解しにくいという現実を反映させるため、米国では字幕なしで上映されたそうです。それでは筋がわからない人もいるのではないかと心配になりますが、日本版はすべて字幕がついていますので安心して観に行けます。ちなみに下の写真のプラカードは“我々は最後まで戦う”という意味です。

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もうひとつが人種間の対立とジェントリフィケーションの問題を絡めたこと。映画はリンカーンセンター(Lincoln Center)建設のための解体工事の現場から始まりますが、少年たちを取り締まるシュランク警部補がジェット団の白人少年たちに向かって“(街が再開発されると)おまえらのような白人のクズがプエルトリコ系のドアマンに追い払われるようになる”と言い放ちます。

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マリアたちプエルトリコ系の住民が暮らしていたサンファンヒル(San Juan Hill)がスラム街に指定され、彼らが追い出されることになるわけですが、対立する白人たちも”white trash”と呼ばれる貧しい層で、やはり追い出される側なのです。つまりジェット団の白人少年にとってもシャーク団のプエルトリコ系少年にとっても、真の敵はジェントリフィケーションとその後にやってくる裕福な人たちだということ。民族や出自による対立より貧富差による対立の方がより根深いことを暗に示しているのでしょう。

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それを象徴するのが、刑務所から出所したトニーが更正のために働いているドクの店の主。オリジナル版ではポ−ランド系の男性ネッド・グラスが店主を演じていたそうですが、リメイク版ではプエルトリコ出身の女性バレンティーナが店主で、オリジナル版でアニータ役だったリタ・モレノ(Rita Moreno)が演じています。どうやらバレンティーナは人種の壁を超えてドクと結婚し、ドクが亡くなった後も地域の少年たちに居場所を提供しているようです。

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彼女の主張は、ジェット団とシャーク団は争っている場合ではなく、それぞれ貧しい同士、連帯して経済的自立を目指すべきだということ。その考え方はシャーク団の女性たちも同様のようで、いつかはプエルトリコに帰ろうと考えているベルナルドに対し、マリアはギンベルズ百貨店で掃除婦をしながら大学への進学を夢見ているようですし、アニータは裁縫で身を立てようと頑張っています。こういった女性の自立に関する部分も、おそらく現代的に創り替える中で盛り込まれたのだと思います。

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そこまでしっかりしているマリアなのに、トニーとの初デートでクロイスターズ(The Met Cloisters)に行ってメロメロになり、すぐさまインターセッション教会(The Church of the Intercession)で結婚の誓いを立ててしまいます。トニー役はアンセル・エルゴート(Ansel Elgort)で、「きっと、星のせいじゃない。」のブログで記したように大して魅力的に見えないにも係わらず、です。仕舞いには自分の兄を殺して殺人犯になったトニーと一緒に逃げようというのですから、いったい何を考えているんだ、という気分になっても仕方ありませんね。

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そのマリアを演じたのはオーディションで約3万人から選ばれたというコロンビア系のレイチェル・ゼグラー(Rachel Zegler)。アニータ役を演じたプエルトリコ系のアリアナ・デボーズ(Ariana DeBose)、ベルナルド役を演じたキューバ系のデビッド・アルバレス(David Alvarez)と共に歌と踊りで物語を引っ張っていきます。

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公式サイト
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