映画「ビリーブ 未来への大逆転(On the Basis of Sex)」

00_3素材は良いのに、料理の仕方が・・・というタイプの映画です。だからといって観る価値がないということではなく、本作で紹介されているルース・ベイダー・ギンズバーグ(Ruth Bader Ginsburg)、通称RBGのことは日本人も知っておいて良いでしょうし、人物像をざっくり知るだけならこの映画もそれなりに意味があります。彼女の実像に迫ったドキュメンタリー映画「RBG 最強の85才」が5月に日本公開されますので、その予習としてご覧になるのもお勧めです。

最初にダメな点を記してしまうと、問題はただ一つ、作りが稚拙だということ。女性差別をなくすために闘った女性の半生を扱っているのに、あまりにもさらっと描き過ぎていて、性差の壁にぶつかったときの葛藤や無念さが伝わってきません。主役ルースを演じたフェリシティ・ジョーンズ(Felicity Jones)や、その夫マーティンを演じたアーミー・ハマー(Armie Hammer)の演技力というより脚本と監督の問題です。

本作の脚本を書き、プロデューサーまで務めたダニエル・スティープルマン(Daniel Stiepleman)は本作でメジャーデビューした人なのですが、なぜこの大役を担ったかというと、マーティンの甥だから。親族であるが故に、関係者に対するさまざまな配慮が必要だったのでしょう。その結果、登場させなくてはいけない人をすべて登場させ、その人たちが取り上げて欲しいであろうトピックをすべて盛り込んだ再現ドラマのような作品になってしまったのではないかと思います。

ということで映画としての出来は今ひとつですが、彼女の半生を一気に眺めるには便利ですし、おそらく必要なネタは概ね盛り込まれていそうです。

映画の始まりはルースがハーバード・ロースクールに入学した1956年。ダークスーツ姿の男性がほとんどの中、ブルーのスーツを着て颯爽と階段を上っていくシーンは、男女平等を目指して闘い、上り詰めていく彼女の人生を象徴しているのでしょう。当時、500人の生徒のうち女性はわずか9人だったそうです。

01_2

ルースはそのとき既に結婚していて娘もいました。コーネル大学在学中の17歳のときマーティン・ギンズバーグと出会い、卒業後に結婚して、ロースクールに入学する前年にジェーンを産んだそうです。子育てしながら学業を修めるだけでも大変だと思いますが、まだ女性の社会進出があまり進んでいない時代ですから、無意識の性差別を含めて、いろいろと不快な思いをしたり、不利な状況に置かれることなります。

03_3

その最たるものが仕事。夫の就職に合わせて転校したコロンビア大学を主席で卒業したというのに、どこも彼女を採用しません。ときは1959年。女性であることと、ユダヤ系であることが障壁になるのです。コロンビア大学でリサーチアソシエートとして3年ほど働いた後、ようやくラトガース大学ロースクールに教職を得られたのが1963年。とはいえ、その6年後の1969年には終身在職権を得ていますので、教授としても優秀だったのでしょう。

02_2

そんな彼女が1970年、チャールズ・モリッツという男性の案件に出会います。未婚の男性であることを理由に介護の所得控除を受けられないのは差別ではないかという訴え。男性が介護の所得控除を受ける要件として、離婚、妻との死別、妻が障碍を持っている・入院しているなどが規定されていて、未婚の男性は対象とされないこと、つまり法律そのものに性差別が含まれていることを俎上に上げようと考えます。

04_2

アメリカ自由人権協会(ACLU)のメル・ウルフ(Mel Wulf)や、公民権運動で知られる女性弁護士ドロシー・ケニヨン(Dorothy Kenyon)らに支えられ、性差の問題を法廷闘争に持ち込みます。ずっと教職にあり、法廷経験がなかったルースにとって大きな挑戦ですが、この勝利をきっかけに法の性差別をひとつひとつ突き崩していくことになるのです。とはいえセクシズムの問題は根深く、たとえばルースの強力な支持者であるメル・ウルフでさえ、もっとにこやかにした方が良いなどという性差別的なアドバイスを無自覚なまま繰り返します。

05_3

そもそも介護の所得控除についても、女性の多くが収入がなかったり少なかったりする現実に対し、それを支援するために制定されたもので、性差別は意識されていないはずです。しかし、そういった前提にたった法律があることで女性の社会的役割を固定化するという側面もあります。そのような性差別の根源を表面化させ、突き詰めていくことで、社会を変えていったのがルースの仕事と言って良いでしょう。

06_3

こういったルースの気付き、時代と共に価値感が変わり、法もそれに合わせて変わるべきだという確信が、娘の行動によってもたらされるあたりは、この映画の最も良い部分だと思います。ここをもう少しちゃんと描けば映画らしい映画になったのではないかと思いますが、夫との協力関係やドロシー・ケニヨンやメル・ウルフのエピソードなどうまく整理できなかったようで、散漫な仕上がりになってしまったのは残念です。ちなみにドロシー・ケニヨンを演じたのは最近は「ミッドナイト・イン・パリ」にも出ていましたがいまだに「ミザリー」が代表作のキャシー・ベイツ(Kathy Bates)、メル・ウルフを演じたのはジェニファー・アニストンの元夫ジャスティン・セロー(Justin Theroux)という懐かしの面々で、脇役のキャスティングもちょっと微妙な感じでした。

公式サイト
ビリーブ 未来への大逆転On the Basis of Sex

[仕入れ担当]