ラテンビート映画祭「VIVA」

00 実はアイルランド映画なのですが、キューバを舞台にキューバ人俳優たちが演じています。ハバナで暮らす美容師の若者が、ドラァグクイーンになろうとして父親と衝突する物語。監督はダブリン出身のパディ・ブレスナック(Paddy Breathnach)です。

この監督の作品は初めてでしたが、映像が美しさが印象的でした。そして音楽。ナイトクラブが重要な舞台となる関係でいくつもの挿入歌が使われているのですが、これが映画の雰囲気にあっていて、とても心地良いものばかりです。ダブリン出身というと「はじまりのうた」や「シング・ストリート」のジョン・カーニー監督を思い出しますが、アイルランド人は音楽的センスに恵まれているのでしょうか。

主人公のヘススは、クラブに出演するドラァグクイーンたちの髪をスタイリングをしたり、カツラの手入れをして暮らしている18歳の青年。あまり実入りが良い仕事でもなさそうですが、近所の老女の髪を安く切ってあげたり、その孫娘に部屋を貸してあげたり、貧しいながらも周りに優しくする余裕はあるようです。

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実はヘスス、歌が好きで、ドラァグクイーンとしてクラブのステージにあがることを夢見ています。彼らを束ねている“ママ”(もちろん男性)に頼み込み、試しに歌わせてもらいますが、まったくダメ。もう一回やってダメだったら諦めるという約束で、必死に練習します。

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次の週のステージではその成果が現れ、お客さんの反応も上々。調子に乗ったヘススは、さらに盛り上げようと、客席にいた中年男性を誘惑するような仕草を見せた途端、その男性に殴られます。その男性は15年のあいだ刑務所に入っていた実の父親アンヘルだったのです。

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伝説的なボクサーだったアンヘル。ヘススは幼少時に会ったきりですから、顔などわかるはずはありません。人を殺したという噂もあるマッチョな性格で、息子がドラァグクイーンとしてステージに上がることなど許すはずがありません。

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ヘススの住処(アンヘルが育った住処でもあります)で一緒に暮らすことになるのですが、刑務所から出たばかりのアンヘルに収入はなく、ヘススの僅かな稼ぎが頼みの綱。ヘススとしては、ドラァグクイーンとしての成功に賭けてみたいものの、アンヘルが同居している限り不可能です。

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普通なら父子が衝突しそうなものですが、ドラァグクイーンを目指すような青年ですから、喧嘩はしません。そんなヘススを見かねたママが手を差し伸べても、それを断り、もっとひどい仕事をして生計を維持している始末です。

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アンヘルはアンヘルで、過去の栄光にすがり、ボクシングジムでトレーナーの職を得ようとしますが、15年もリングから離れていたのですから、受け入れられるはずかありません。ただでさえ乱暴なのに、やけ酒をあおって、自暴自棄になったります。

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そんな父子の暮らしを描いていくお話ですが、乱暴な父親もそれなりに息子を思っていて、嫌な気持ちになるような結末ではありません。ちなみに息子の名前ヘススを英語読みにすればジーザス(キリストのことです)、父親の名前アンヘルはエンジェルですから、それで結末をイメージできてしまう人もいるかも知れませんが・・・。

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ヘススを演じたのは「キング・オブ・ハバナ」で娼婦役だったエクトル・メディナ(Héctor Medina)。アンヘルを演じたのはベテランのホルヘ・ペルゴリア(Jorge Perugorría)。名作「苺とチョコレート」でゲイの芸術家ディエゴを演じて有名になった人で、その彼がマッチョな中年男性を演じるところにも面白さがあるのでしょう。

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そしてママを演じたのは、オムニバス映画「セブン・デイズ・イン・ハバナ」でジョシュ・ハッチャーソン主演の短編「El Yuma」に出ていたルイス・アルベルト・ガルシア(Luis Alberto García)。その監督であるベニチオ・デル・トロ(Benicio Del Toro)が、この「VIVA」のエグゼクティブプロデューサーを務めています。

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[仕入れ担当]