映画「悪童日記(A nagy füzet)」

00_2 20年ほど前にベストセラーになった同名小説の映画化です。ずいぶん昔に読んだ本なので、細部の記憶は曖昧なのですが、それでも読了時に強い衝撃を受けたことだけは鮮明に記憶しています。

きっと邦題も良かったのでしょうね。アゴタ・クリストフ(Agota Kristof)がつけた原題は"Le Grand Cahier"で、大いなるノートとか偉大な帳面とかそういう意味だと思いますが、それを訳者の堀茂樹さんがノートの持ち主である主人公に視点を移し、「悪童日記」と題したことが日本で広く読まれた大きな理由だと思います。

フランス語で著された原作小説では場所や登場人物の背景などを特定していませんが、映画化にあたり、舞台をアゴタ・クリストフの故郷であるハンガリーに設定したようで、映画の原題もセリフもハンガリー語になっています。その関係か、2014年度アカデミー外国語映画賞のハンガリー代表に選ばれているようです。

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ハンガリー出身のヤーノシュ・サース(János Szász)監督は、原作小説にあった衝撃的なシーンの多くを敢えて描かなかったということですが、それでも小説がもっていた迫力はほとんど損なわれていません。撮影監督を「白いリボン」のクリスティアン・ベルガー(Christian Berger)が務めたこともあって、映像の力をまざまざと見せつけられたような気がします。

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また、まったくと言っていいほど残虐なシーンがないにも関わらず、戦争の悲惨さや宗教のグロテスクさをリアルに伝えているあたりも凄いと思います。原作小説は、双子がノートに記したものということになっていますが、映画でも主人公たちが持つノートは非常に重要で、特に暴力を示唆するような場面では、ノートの端に描かれたパラパラ漫画を利用して実写映像以上の効果をあげています。

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もちろん物語そのもののパワーや映画製作者の力もあるでしょうが、間違いなく、主役の双子を演じた2人の少年の個性が重要な部分を担っています。

アンドラーシュ・ジェーマント(András Gyémánt)とラースロー・ジェーマント(László Gyémánt)というこの兄弟、本作のオーディションで選ばれるまではハンガリー南部の田舎で暮らす普通の子どもだったそう。彼らの強い意志を感じさせる目と、それを含む顔立ちの美しさがこの映画を支えているといっても過言ではないでしょう。

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準主役ともいえる双子の祖母<魔女>を演じたピロシュカ・モルナール(Piroska Molnár)は、ハンガリーの有名な女優さんだそうです。原作小説では痩せこけた老婆となっているところを、巨体の彼女が迫力満点に演じたわけですが、これはこれでリアリティがあって良かったと思います。

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また、離れにやってくる将校を演じたウルリッヒ・トムセン(Ulrich Thomsen)は、デンマーク出身の俳優。アカデミー外国語映画賞に輝いた「未来を生きる君たちへ」では、報復のために問題行動を起こしてしまう少年の父親の苦悩を上手に表現していましたが、本作でもペドフィリアの傾向がある微妙な役柄を表情を抑えてうまく演じていました。

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監督も出演者もあまり有名ではありませんので、どうしても原作小説の知名度に寄りかかった宣伝ばかり見ることになってしまいますが、個人的には、映画としての完成度もかなり高いと思いました。ご覧になれば、間違いなく、フィクションならではの凄みに圧倒されるはずです。

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公式サイト
悪童日記The Notebook

[仕入れ担当]