アカデミー賞の外国語映画賞といえば、一昨年の「おくりびと」、昨年の「瞳の奥の秘密」と、アカデミー賞の中ではなかなかセンスのよいセレクションという印象がありますが、今年の受賞作「未来を生きる君たちへ」もこの2作に負けず劣らず素晴らしい作品です。
映画では、スーダンの難民キャンプ、デンマークのありふれた町、それぞれの出来事が並行して描かれます。まったく違う環境の中、どちらの世界でも暴力による示威が行われ、報復が連鎖していきます。
難民キャンプの医療に携わる医師であり、デンマークで暮らす2人の男の子・エリアスとモーテンの父親であり、妻マリオンとの関係を修復しようと試みている夫であるアントンは、感情に揺り動かされる世界で理性的に生きようと踏ん張ります。
この映画の原題であるHÆVNENは、英語のHEAVENのデンマーク式の表記かと思っていたら、デンマーク語で「復讐」を意味する単語だそう。おそらく、そのあたりがテーマなのだろうと思います。
というのは、この映画、復讐=悪という単純な道徳観だけでは割り切れない、重層的なものを包み込んでいるから。世間の理不尽さを抱え、憎悪せざるを得ない人々のことも丁寧に描かれていて、終映後に自らを振り返り、じっくり考えたくなる映画です。
実に緻密に作り込まれていると思います。脚本は数々の名作を手掛けているアナス・トーマス・イェンセン(Anders Thomas Jensen)。この脚本家と、スサンネ・ビア(Susanne Bier)監督が、時間をかけて練り上げていったことが、映画の随所から伝わってきます。
去年の8月は「ハロルドとモード」を観て平和について考えましたが、この「未来を生きる君たちへ」と、スペイン映画「ペーパーバード 幸せは翼にのって」の2作は終戦66年目の夏にぴったりの内容だと思います。お子さまにも、安心しておすすめできる映画です。
公式サイト
未来を生きる君たちへ(In a Better World)
[仕入れ担当]