アカデミー賞の中でも外国語映画賞はいつもセンスの良い作品が選ばれるので注目しているのですが、今年、本命と思われていたトマス・ヴィンターベア監督「偽りなき者」を破り、本作が選ばれたときは、ちょっと意外でした。今まで「イル・ディーヴォ」や「きっと ここが帰る場所」を観てきた印象から、この監督の美しい映像を連ねていく抽象的な作風は、何となく米国ではウケなそうだと思っていたからです。
この「グレート・ビューティー」も、老年に差し掛かったイタリア男性のライフスタイルを描いていくだけで、これといったストーリーがあるわけではありません。そういう意味では、パオロ・ソレンティーノ(Paolo Sorrentino)監督らしい作品なのでしょう。
まずオープニング。観光客が行き交う街なかから、修道女が歌うテラスに向かってカメラが大きく移動します。3分ほどの長回しで撮っていますので、撮影技術の点からも見せ場なのかも知れませんが、それだけでなく、このワンカットで、聖と俗にまみれたローマのイメージを捉えてしまうところがこの監督のすごさです。
そして場面が切り替わると、それまでの賛美歌とは打って変わって、騒々しいクラブミュージックが鳴り響くなか、この映画の主人公、ジェップが65歳の誕生日を祝われているシーン。トニ・セルヴィッロ(Toni Servillo)演じるこの洒落た初老の男性は、40年前に小説“L’Apparato Umano”(人間装置)を書いたきりという作家です。
今は、有名人のインタビュー記事を売っているようですが、なぜずっと派手に遊んで暮らしていけるのかは不明。ジェップが暮らす部屋の広々としたテラスの向こうはコロッセオですし、隣にはマフィアの幹部と思われる、いかにも裕福そうな男性が住んでいます。
映画の途中、マリーナ・アブラモヴィッチもどきのパフォーマンスアーティストを取材するシーンがあるのですが、ジェップの我が強過ぎて、話を十分に聞けないうちに物別れになってしまいます。それでも、依頼者である編集長に温かく迎えられているのですから、どういう立場で仕事をしているのかさっぱりわかりません。ちなみにこの編集長は、小人の女性で、こういった細かい仕掛けが古いイタリア映画へのオマージュになっているようです。
パーティ三昧の生活に明け暮れながらも、自らの年齢を感じつつあるジェップ。そんなとき、若い頃に交際していた女性の訃報に触れ、青年時代の思いが一気に押し寄せてきます。また書いてみようかと思ってみますが、単に過去の感傷に浸っているだけかも知れません。みんなで輪になって、永遠にどこにも行き着けない電車ごっこをしているセレブたち。果たして偉大なる美は見つけられるのでしょうか。
そんな感じで、曖昧にストーリーが繋がっていくのですが、仮に物語に感情移入できなくても、映像と音、そしてトニ・セルヴィッロの優雅なたたずまいを味わうだけでも、十分に気持ちの良い映画です。時間に余裕があれば、イタリア的な世界感にどっぷり浸れると思います。
公式サイト
グレート・ビューティー /追憶のローマ(La grande bellezza)
[仕入れ担当]