映画「インポッシブル(Lo imposible)」

Imposible0 予告編を観たときは、こんな映画を日本で公開するなんて一体どういう了見なんだろうと思っていたのですが、監督が「永遠のこどもたち(El Orfanato)」のフアン・アントニオ・バヨナ(Juan Antonio Bayona)だし、主演がナオミ・ワッツ(Naomi Watts)とユアン・マクレガー(Ewan McGregor)だし、一応観ておこうと映画館に行きました。

で、結論を言えば、思いがけず良い映画でした。とても誠実に作られていますし、また出演者たちの演技にも熱がこもっていて、あれほど酷い災害を扱いながら、観賞後の後味もそれほど悪くありません。

ベースになったのはマリア・ベロン(María Belón)の体験談。彼女と夫、3人の子どもがタイでクリスマス休暇を過ごした2004年末、スマトラ島沖地震の津波に襲われたときの実話です。スペイン人の家族ですので、実際にはスペイン語で話していたと思いますが、映画の中では英語を話す設定になっています。

映画の中ではヘンリーという名前に変えられているマリアの夫エンリケ(Enrique Alvarez)が、ジレットジャパン(Gillette Japan Inc.)勤務だった関係で日本で暮らしていたこの家族、冬休みを過ごすためにプーケットの北、カオラック(Khao Lak)のリゾートホテル(Orchid Beach Resort)にやってきます。

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コムローイ(天灯)を飛ばしたり、プレゼントを贈ったり、一家でクリスマスを楽しんだ翌日のボクシングディ。

夫と子供たちが新しいビーチボールで遊んでいるのを眺めながらプールサイドで読書していたマリアが地鳴りを耳にした途端、リゾートごと巨大な高波に飲み込まれてしまいます。

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たまたま濁流の中で長男のルーカスと再開できたマリアは、胸と足に大怪我を負いながらも何とか樹上に避難。その後、救助に来た現地住民に病院へ運び込まれます。

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夫のヘンリーも次男のトマス、三男のサイモンと共に生き延びていて、被災地の混乱を乗り越え、再会するという物語。

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正直いって、津波の映像は気分が悪くなりました。しかし、マリアを演じたナオミ・ワッツの苦悩に満ちた表情、ヘンリーを演じたユアン・マクレガーの真摯な表情には胸を打つものがあります。また、3人の子役たちから、ひたむきさが伝わってきて、思わず応援したくなりました。

それにしても、ナオミ・ワッツは年齢とともにどんどん良くなっていく女優さんですね。このブログでも「愛する人」「恋のロンドン狂騒曲」「J・エドガー」を取り上げていますが、今回もまた内に秘めた心情が伝わってくる演技でアカデミー賞にノミネートされています。次作ではダイアナ妃を演じるそうで、これもまた楽しみです。

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話が逸れますが、ナオミ・ワッツが演じたマリア・ベロンが、津波に襲われたときにプールサイドで読んでいた本はカルロス・ルイス・サフォンの"La Sombra del Viento"だそう。

日本でも「風の影」というタイトルで邦訳が出ていますが、バルセロナを舞台にしたとても面白い小説ですので未読の方はぜひ! 文庫の出版時には映画化予定となっていましたが、その後どうなったかも気になるところです。

脱線ついでに書くと、この災害の一年後、私はプーケットに行っています。現在の東北地方と同じように、タイのビーチリゾートに行こうというキャンペーンがあり、もともとバンコク経由で旅行する予定だったところにプーケットを加え、宿泊施設の被害が少なかったスリンビーチ北部に泊りました。

もちろん「被災地に遊びに行くなんて」という人もいましたし、タイ国内でも「あそこのシーフードは溺れた人を食べて育った魚だ」という心無い声もありましたが(どこにでも足を引っ張る人はいるものです)、お料理はおいしかったし、現地の人たちの心の温かさは以前と変わらず、とても快適な旅行でした。また、スウェーデン人をはじめ、北欧やドイツからたくさんの観光客が戻ってきていて、引き続きプーケットが愛されていることも良い気分にしてくれました。

タイには、この時を含めて南北いろいろな地域に行っているのですが、機会があればそういったお話もブログに書いてみたいと思っています。

公式サイト
インポッシブルThe Impossible

[仕入れ担当]