イジス写真展―パリに見た夢―(Izis Paris des rêves)

日本橋三越で開催中(10月15日が最終日)の写真展です。ついでがあって偶然に観てきたのですが、たった1週間の開催ではあまりにもったいない、とても見応えのある素晴らしい写真展でしたので急遽ご紹介します。

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通称イジス(Izis)、本名イズラエル・ビーデルマン(Israëlis Bidermanas)は、リトアニア生まれの写真家で、第二次世界大戦中から1960年代にかけてパリで活躍しました。日本での知名度はそれほど高くありませんが、欧米ではアンリ・カルティエ=ブレッソン、ブラッサイ、ロベール・ドアノーたちと並び称せられる人です。

2010年の1月から5月にかけて、パリ市庁舎(Hôtel de Ville)で大回顧展が行われ、その日本巡回展が日本橋三越のフランスフェアに連動する形で開催されています。パリの大回顧展がベースになっているためか、作品数が180点と非常に多く、イジスの初期から晩年に至る作品を網羅的に堪能することができます。

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本名でおわかりのようにユダヤ系移民であるイジス。苦労の末、パリの写真館で職を得て、スタジオを任されるようになりますが、戦中のドイツ軍侵攻でリモージュ郊外への疎開を余儀なくされます。その後、抗独運動に加わったため、写真展ではまず最初に、銃を携えたレジスタンスの活動家たちのポートレートが並びます。

戦後、パリに戻り、労働者や露天の花売りなど市井の人々をモノクロームで撮り始めます。いわゆる「詩的リアリズム」の系譜に属する作品です。路上生活者の写真もたくさんありますが、これは今で言うホームレスとは異なり、戦争で家を失った人たちでしょう。貧しい人たちへ向けた暖かいまなざしが印象的です。

パリマッチ誌の専属カメラマンとなり、さまざまな著名人たちと出会いますが、写真展でひときわ目を引くのは、パリ・オペラ座の天井画を描くシャガールを撮った一連の作品。モノクロームの作品の中で、この一角だけ色彩に溢れ、シャガールを撮った写真でさえ、まるでシャガールの絵画のように見えます。

また、個人的に記憶に残ったのは、イスラエルに旅して撮った作品。ユダヤ人であるが故に戦中に辛酸をなめ、アイデンティティに深く刻み込まれてしまったのでしょう。どの作品からも被写体に対する強い思い入れが溢れていて、たとえばロンドンを撮ったシリーズ等には見られない、意志と迫力が感じられました。

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一見の価値がある写真展だと思います。最終日まで残り1日しかありませんが、もしお時間に余裕があれば、ぜひご覧になってみてください。

イジス写真展―パリに見た夢―
10月10日〜15日
http://www.mitsukoshi.co.jp/store/1010/izis/

Izis Paris des rêves
http://izis.paris.fr/

[仕入れ担当]