「街のあかり」などで知られるフィンランドの監督、アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki)の最新作。1991年の「ラヴィ・ド・ボエーム」以来、カウリスマキ監督としては約20年ぶりのフランス語の映画だそうです。
人情溢れる市井の人々と、アフリカから逃れてきた不法移民の少年の物語が、フランス北西部の港町、ル・アーブル(Le Havre)を舞台に繰り広げられます。とても温かな気持ちになる映画です。
物語もさることながら、ル・アーブルの港や路地の情景に見とれました。画家のモネ(Claude Monet)やデュフィ(Raoul Dufy)が育ったそうですが、本当に素敵な町ですね。
パリでボヘミアン的な暮らしをした後、今ではル・アーヴル駅(La gare du Havre)などで靴磨きをして生計を立てているマルセル・マルクス。一緒に暮らしている妻のアルレッティは、つつましく献身的ながら芯の強い女性です。彼女、元々は外国人という設定のようですが、映画のところどころで触れられるだけで、具体的な出身地などは示されません。
そしてマルセルの愛犬ライカ。去年のカンヌ国際映画祭でも注目されたようですが、同じくコンペティション部門に出品されていた「アーティスト」のアギーの芸達者ぶりに比べると、割と平凡な犬です。監督の飼い犬だそうで、「街のあかり」に出ていた犬の娘とのこと。「人生はビギナーズ」といい、2011年は犬の存在感が光る映画が多かったですね。
それはさておき、港で昼食をとろうとしていたマルセルは、摘発から逃れて隠れていたアフリカ系の少年イドリッサと出会います。
食事を分けてあげようとするのですが、地元警察のモネ警視が来てしまい、マルセルがとぼけて時間稼ぎをしているうちにイドリッサは隠れてしまいます。その後、こっそり食事を買って、港の同じ場所に持っていくマルセル。
一方、アルレッティは体調が優れず、検査を受けにいった病院で、余命いくばくもないと宣告されます。しかし、アルレッティにとって大きな子どもであるマルセルに、そんなことは告げられないと、病名を言わないまま入院します。
そんな中、イドリッサと再会したマルセルは、界隈の人々の協力を得ながら彼を自宅に匿います。それまで、ツケで食材を買うマルセルにつれなかった食品店の主も、移民の少年を住まわせていると知ると、もう傷みそうだからと言い訳しながら食材をくれたり、下町らしい触れ合いが良い感じです。
最終的には、おとぎ話のようにミラクルなハッピーエンドが待っているのですが、マルセルのシニカルな語り口や、彼をとりまく温かな人々の暮らしぶりにリアリティがあって、この映画がもつ空気感にどっぷり浸ることができます。
マルセルを演じたのは、「リッキー」でお医者さん役だったアンドレ・ウィルム(André Wilms)。アルレッティ役はカウリスマキ映画の常連、カティ・オウティネン(Kati Outinen)。
モネ警視を演じたジャン=ピエール・ダルッサン(Jean-Pierre Darroussin)もいい味を出していましたが、そういう意味ではリトル・ボブ(Little Bob)として登場するロベルト・ピアッツァ(Roberto Piazza)が印象に残りました。彼は実際にミュージシャンとして活躍している人(サイトはこちら)だそうです。
ひとつひとつのシーンが絵になる映画です。ヨーロッパ映画がお好きな方なら、観賞後、しばらく反芻して楽しめる映画だと思います。
公式サイト
ル・アーヴルの靴みがき(Le Havre)
[仕入れ担当]