東京、京都に続いて、明日から横浜で始まるラテンビート映画祭 。今年は見応えのある作品が多く、このブログでも既に5本ご紹介してきましたが、この1本で締めくくります。麻薬絡みの抗争が激化するメキシコの現在を描いた映画です。
上映前、成田に数時間前に到着したばかりという主演のステファニ・シグマン(Stephanie Sigman)と、プロデューサーのパブロ・クルス(Pablo Cruz)が舞台挨拶に立ちました。
プロデューサー曰く「この映画の撮影を始めた2008年頃、4万人が麻薬抗争の犠牲になっていると言われていたが、現在では死者6万人を超える事態になっている」とのこと。映画館内の全員が起立して、犠牲者に黙とうを捧げました。
ちなみにパブロ・クルスは、メキシコの格差社会を描いたガエル・ガルシア・ベルナル(Gael García Bernal)初監督作品「太陽のかけら(Déficit)」や、ホンジュラスの不法移民とメキシコのギャングを描いた「闇の列車、光の旅(Sin Nombre)」などを手掛けてきたプロデューサーです。
映画は、ミスコンへの出場を夢見るラウラが友だちとクラブに行き、そこで麻薬組織の抗争を目撃してしまう場面からスタート。パトロール中の警官に助けを求めますが、その警官も組織に通じていて、結局、組織の手に引き渡されてしまいます。組織のボスから、命を助けるかわりに犯罪の手助けをするように命じられ、裏切ったら家族を殺すと脅迫されて一味と一緒に行動するはめに……。
映画の中には、見せしめのために遺体を橋桁から吊り下げるといった視覚的に恐ろしいシーンもありますが、それよりも、知らず知らず追い込まれていく恐怖、誰と誰が通じているのかわからない恐怖がジワジワと伝わってきて、映画を観ている間、ずっと身体をこわ張らせていたような気がします。
終映後、再度、主演女優とプロデューサーが登壇し、観客からの質問を受け付けました。プロデューサー曰く「なぜラウラが麻薬組織から逃げ出さないのか、と思うかも知れないが、今のメキシコは、軍も警察も政治家も、あらゆるところに組織の手が伸びているので、どこにも逃げることができない。そういう意味で、ラウラは今のメキシコそのものとも言える」と言っていました。
また、これは実際に起こったことを映画化したのか、との質問には「監督のヘラルド・ナランホ(Gerardo Naranjo)が、たまたまミスコンの女王逮捕のニュースを見て、そこからアイデアを膨らませたフィクションだ」と答えていました。おそらくこの記事(英文)で取り上げられているこの写真の事件のことでしょう。下は、映画の中で逮捕されたラウラの写真ですが、比べてみるとイメージが伝わってきます。
プロデューサー(下の写真:右)は「これがメキシコで日々起こっている現実であり、世界の皆さんに知ってもらうことが重要だ」と言い、観客のコロンビア人の女性からは「こういった社会問題を取り上げるには困難が伴うと思うが、映画にしてくれてありがたく思う」と讃えられていました。
確かに、こういう映画を作ること自体、リスクなのでしょう。つい先日も、麻薬組織に関する情報提供をブログで呼びかけていた地方紙の記者が惨殺されたという報道(リンクしませんが"La Nena de Laredo"で検索すると見つかります)を見かけました。この映画関係者の無事を祈るとともに、メキシコの異常な事態が早く収束することを心から願っています。
公式サイト
Miss Bala
[仕入れ担当 ]