ヴァレンタインデーですので愛の映画のお話を。
現在公開中の「Elegy(エレジー)」を観ました。とても切ない大人の愛の物語でした。
監督は「死ぬまでにしたい10のこと」「あなたになら言える秘密のこと」のイサベル・コイシェ(Isabel Coixet)。バルセロナ出身のスペイン人女性監督です。昨年、セルバンテス文化センター東京公式オープンプログラムの一つとして開催されたシンポジウム「スペイン女性クリエイター」のゲストとして来日していました(シンポジウムの様子は店長のブログをご覧ください)。
老いや死に対する畏怖や、性への欲望を、ドラマティックにではなく、繊細かつ静かに描く監督だと思います。「パリ・ジュテーム(2006年)」という、18人の監督が競作したオムニバス映画がありましたが、私はその中でもパリ12区を舞台にしたストーリーが一番好きでした。愛人のいる男が、妻に別れ話を切り出そうとすると、逆に妻が死に至る病を患っていることを知らされます。最後のときを一緒に過ごそうと決心する男。妻に尽しているうちに改めて恋心を抱いていくという微妙な心理を描いた作品でしたが、この短編映画もコイシェ監督の作品でした。
「Elegy(エレジー)」の原作は米国文学界の巨匠と言われるフィリップ・ロス(Philip Roth)の「The Dying Animal」。近年は老人の性を扱った作品が目立つ作家ですが、この映画からも、年齢差のある男女の愛、惹かれあうにつれて純粋さを増していく愛に、心を締めつけられるような切なさを感じました。ストーリーについては、あえて書きませんが、終盤のペネロペの台詞、「I will miss you」という一言にすべてが集約されているように思います。
もちろん、ペネロペ・クルス(Penélope Cruz Sánchez)の美しさは息をのむほど。出演のオファーを受けてから引き受けるかどうかを5年ほど悩んだということですが、彼女以外に、この役を演じられる女優はいなかったのではないでしょうか。デビュー作の「ハモン・ハモン(1992)」を日本公開当時に観たときも、10代でこの色気が出せるなんて、と思ったものですが、それからキャリアを積むにつれて、ますます美しさに磨きがかかってきたようです。30歳も年の離れた男性を愛し、別れ、そして乳癌に侵されていくという難しい役どころを見事に演じ切っていました。「Vicky Christina Barcelona(それでも恋するバルセロナ)」でアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされているようですが、このエレジーでの演技の方が評価に値するのでは、と思いました。
この映画では、コイシェ監督自らがカメラワークや選曲を担当していますが、カメラワークが実に素晴らしい。官能的なシーンを美しく、かつリアルに描いていて、どんどん引き込まれていきます。また脇を固める俳優陣も素晴らしい。ペネロペの相手役、ベン・キングスレー(Ben Kingsley)の感情表現は秀逸ですし、デニス・ホッパー(Dennis Hopper)とパトリシア・クラークソン(Patricia Clarkson)の枯れた演技にも心を揺さぶられます。
大人向けの恋愛映画だと思います。おすすめです。
エレジー公式サイト
http://elegy-movie.jp/
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