映画「RBG 最強の85才」

rbg米国の連邦最高裁判所判事であるルース・ベイダー・ギンズバーグ(Ruth Bader Ginsburg)、通称RBGの半生を記録したドキュメンタリーです。先月観てきたフェリシティ・ジョーンズ主演の「ビリーブ」は彼女の若い頃にフォーカスしたドラマでしたが、本作ではコーネル大学での夫マーティンとの出会い、ハーバード・ロースクールからコロンビア大学に移って教職に就くまでをぐっと圧縮し、その後、彼女が原告側弁護士として闘ってきた裁判、判事就任後の判決を取り上げることで、彼女の思想と人となりを網羅的に見せていきます。

こう書くと理屈っぽい法廷ドラマのようですが、テンポの良い展開と彼女の剽軽なキャラクターのおかげで、しち面倒くさい印象は皆無です。むしろ、劇映画である「ビリーブ」よりもドラマティックで感動的かも知れません。特にマーティンとのなれ初めから彼を失うまでの実写映像の数々は、あたかも演出されたラブロマンスのようで心揺さぶられます。そういったプライベートなエピソードを挟みながら、女性の法的平等を追い求めた勇者としての姿が描かれていきます。

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映画の始まりは、さまざまな関係者が彼女の評価=毀誉褒貶を語る場面。続いてジムでウェイトトレーニングをする姿。映画撮影時85歳と言いますから、たいした体力です。さまざまな風評に晒されながら、着実に仕事を進め、結果を出してきた彼女を象徴するうまいオープニングだと思いました。ちなみに彼女、とりたてて健康というわけではなく、大腸がんとすい臓がんを経て体力作りのためにトレーニングを始めたようです。

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その後は時間軸に沿って、さまざまな関係者のインタビューを織り込みながら、実写映像で彼女の半生を紹介していきます。当時のコーネル大学は女性比率が低かったので相手を選び放題、毎週違う相手とデートしていたなどど軽口を挟みながら、マーティンに惹かれた理由をのろけるあたりは非常にチャーミング。対するマーティンも、建前はブラインドデートだったが、実は彼女とデートしたくて友人に頼んで仕込んでいたと裏話を打ち明けます。終始一貫、仲の良さが印象に残ります。

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その後は「ビリーブ」で詳しく描かれていたように、女性であるが故に弁護士事務所の職を得ることができず、大学教員をしながらACLU(American Civil Liberties Union)と性差別解消に取り組んで行きます。彼女の基本スタンスは、女性の権利拡大ではなく、法制上の性差別をなくすこと。合衆国憲法修正第14条の平等保護条項を盾に、法律に記された性差別を憲法違反と認めさせ、女性を保護しているように見える法律の背後に潜む“女性は男性に依存・従属するもの”という固定観念を顕在化させて変えていくやり方です。

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そうして性差別に関する6件の訴訟のうち5件の訴訟で勝利することになります。1980年にジミー・カーターからコロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所の判事に任命されたことで教員から法曹へと転換し、1993年にはビル・クリントンから史上2人目の最高裁判事に指名されて以来、80代後半に入った今に至るまで判事の職務を全うし続けるわけです。

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彼女の仕事っぷりの詳細は映画でご覧いただければと思いますが、強烈だったのはバージニア州立軍事学校(VMI)の訴訟。最終的に、男子だけに入学資格があるのは違憲だと最高裁が判決を下し、その法廷意見をRBGが書いたわけですが、論点は、男子のみが入学することに合理性があるか否かです。何度か校内の実写映像が挟まれるのですが、これがあり得ないほどマッチョな世界で、プライバシーのない集団生活と、ほとんど嫌がらせとしか思えないシゴキが繰り広げられ、わたしの個人的感覚では、男女差別以前に、これを教育と呼ぶこと自体が異常です。そんな学校でも、入学したいという人がいる以上、男女関係なく受け入れるべきだという理念のタフさに感服しました。

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現在では1割以上が女子学生だそうで、この学校の教育システムもその影響を受けて変化しているかと思いますが、理念を押し通すことで規則を適正化し、その規則をベースに現実を少しずつ変えていくというRBGの闘い方が顕れた好例だと思います。

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映画には彼女の娘と息子、孫が登場し、家庭内のRBGを語らせることで、彼女の剽軽な性格が丁寧に伝えられます。RBG自身、親の教育方針を受け継いで絶対に怒らないそうですが、それもあってか、家庭のみならず仕事関係でも良好な人間関係に恵まれ、結果的に彼女が善良でキュートなままでいられるのだろうと思いました。アンガーマネジメントは重要ですね。

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ちなみに、ルース・ベイダー・ギンズバーグのキャッチフレーズ“Notorious RBG”(公式ストアまであります!)はラッパーのノトーリアスB.I.G.をもじったものだそう。それをどう思うか訊かれたRBGが、似てると思うわ、どちらもブルックリン出身だし、と答えるシーンも彼女の人となりを示していてとってもキュートです。

公式サイト
RBG 最強の85才RGB

[仕入れ担当]