今まで表舞台に出ることがなかったマルタン・マルジェラが、初めてインタビューにこたえたドキュメンタリーフィルムです。監督は映画「ドリス・ヴァン・ノッテン」のライナー・ホルツェマー(Reiner Holzemer)で、2018年にパリのガリエラ美術館で開催された回顧展「Margiela / Galliera 1989-2009」の準備中のデザイナーから話を聞いています。
謎に包まれた天才デザイナーという触れ込みですが、日本では2019年に「マルジェラと私たち」という、メゾン・マルタン・マルジェラのスタッフと周辺の人々がマルジェラについて語ったドキュメンタリーが公開されていますので、あまり目新しい情報はありません。唯一注目すべき点は、デザイナー本人と家族しか知らない、子ども時代のエピソードでしょう。
手作りしたバービー人形の衣装やドローイング、ドレスメイカーだった祖母から受けた影響など、彼の生い立ちからデザイナーを目指すまでの過程を垣間見ることができます。そのバービー人形は母親が大切に仕舞っておいてくれたそうですが、できればその母親にもインタビューして、もっと深い情報を掘り起こして欲しかったと思いました。
というのは、マルジェラ本人は、デビュー当時の作風からはイメージできない真面目な人で、映画でも無難な受け答えしかしません。しかし、彼のスタッフだったニナ・ニーチェ(Nina Nitsche)やニューヨークタイムズのキャシー・ホリン(Cathy Horyn)の話からは、メゾンの経営的苦境とその結果としての転換が透けて見えます。

つまりマルジェラは何度も厳しい決断を迫られたはずなのに、そういった苦労の跡をまったく見せない人なので、母親が語るマルタン・マルジェラ像の方が本人が語るよりも面白いような気がするのです。
それはさておき、この映画製作のきっかけでもあり、終盤で映っていたガリエラ宮の個展、素晴らしい展覧会だったにもかかわらず、instagramに一部アップしたのみでブログでご紹介していなかったことに気付きました。
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映画で紹介されていたアーカイブ作品や資料を、2018年に個展会場で撮影した写真からご覧いただきたいと思います。
入口からマルジェラらしさ全開です。

コレクションの記録としてモデルたちにペイントを踏ませ、その布で作った作品。

そのプロセスの模型。

割れた皿で作った作品。

ソックスセーター。

その作り方。

のみの市で買い集めた服で作った作品。

スタッフに集めて貰った布で作った作品。

コレクションの途中段階をトルソーで表現したドレス。

服を写真に影り、それをプリントした生地で作った作品。

棚に飾られたバービー人形。

映画の宣伝用ビジュアルにも使われていた足袋シューズの展示。

そしてこれがガリエラ宮の全景です。

ということで、映画ではこれらの作品やランウェイの映像に、マルタン・マルジェラの語りとゴルチェはじめ関係者の証言を組み合わせて作られています。顔は撮らないという約束なので主に手もとを写しているのですが、デザイナーの手ですからそれはそれで興味深い映像になっています。
また、背後にはアトリエの様子が映り込みます。白い箱に詰めて整理されているコレクションもこのデザイナーらしさを象徴していましたが、壁に無造作に立てかけられたREBAJAS(スペイン語でバーゲンセールの意味)の縦書きサインも気になりました。
公式サイト
マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”(Martin Margiela: In His Own Words)
[仕入れ担当]