映画「幸せなひとりぼっち(En man som heter Ove)」

00新年から孤独がテーマの映画かと思われるかも知れませんが、寂しい気分になるような作品ではありません。頑固ジジイが周りの人々に心を開いていくという泣き笑い系の王道ながら、クスッと笑わせる部分とホロッとさせる部分のバランスが絶妙で、さすが人口950万人のスウェーデンで80万部以上(人口の1割弱!)売れたベストセラーが原作というだけあります。安心して観に行ける1本だと思います。

原題は“オーベという男”という意味。そのオーベというのが本作の主人公である59歳の男性で、最近、妻のソーニャを看取ったばかりの上、映画の冒頭で、長年務めた職場からリストラされてしまいます。

オーベは若いころから真面目な性格で、不正や規則違反が大嫌い。それは幼少時に母親を亡くし、仕事一筋の父親に育てられたことが大きく影響しているのでしょう。唯一の家族だった父親も学生時代に亡くしたオーベにとって、その後、偶然の出会いから結婚に至ったソーニャは人生のすべてでした。

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最愛のソーニャを失い、仕事を失ったオーベにとって、生きることの意味は無に等しい状態です。身辺整理をして、自ら妻の元へ旅立とうとしますが、その瞬間、窓の向こうで衝突音がして、外を見ると彼の郵便受けが車に倒されています。

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オーベはかつて住宅エリアの自治会長を務めていて、規律に厳し過ぎたことも影響してか、会長選挙で友人のルネに負けてしまいます。それでもエリア内の規律は守らせたいと勝手に自警団ようなことをしていて、毎日、エリア内の見回りをしています。もちろん住宅エリア内に車が入ってくるなど言語道断、すぐに警告して追い出さなくてはなりません。

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血相を変えて飛び出しますが、車を運転していたのは隣家に引っ越してきたペルシャ人家族の夫。引っ越し荷物の運搬なら仕方ありません。あまりにもバックがヘタなのを見かねて運転を代わったりしているうちに、妻の元へ旅立つ気持ちが萎えてしまいます。

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その後も、ハシゴを借りに来たり、夫がハシゴから落ちたと妻のパルバネが駆け込んできたり、オーベに頼み事をしてきて、そのたびに命を絶つチャンスを逸するのですが、もともと面倒見のいいオーベですから、文句を言いながらも手伝ってしまいます。そして次第にパルバネとその子どもたちとの交流ができてきます。

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そんな中でパルバネはオーベとソーニャの物語を知るようになり、この怒りっぽいジジイの別の顔を見ることになります。もちろん観客も、現在のオーベの暮らしと併行して彼の生い立ちやルネとの過去の交流をみてきていますので、ソーニャの物語を聞いて、パルバネと同じように心が揺さぶられることになります。

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主人公のキャラクターは「思秋期」でピーター・マランが演じた人物を思わせ、また命を絶てないあたりはベルギー映画「素敵なサプライズ」を思わせますが、そのいずれとも異なるのは主人公が過去の思い出に生きているところ。ソーニャとの出会いで人生が変化し、ソーニャの生き方に大きな影響を受けたオーベにとって、ソーニャに対する気持ちがすべてに勝るのです。そういう意味で本作は熱烈な純愛映画といえるかも知れません。

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ほんのり温かい気持ちになれる映画です。お正月にゆったりした気分でご覧になるのがお勧めです。

公式サイト
幸せなひとりぼっちA Man Called Ove

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