アレハンドロ・ホドロフスキー(Alejandro Jodorowsky)監督の幻の作品が日本公開されています。去年、23年ぶりの新作「リアリティのダンス」が公開されて話題になりましたが、23年前の作品というのがこの「虹泥棒」です。
その前年には、商業映画を意識して作ったといわれる「サンタ・サングレ」を撮っていたホドロフスキー監督、本作で初めて英国メジャー資本の資金で製作したわけですが、どういうわけかこれを最後に監督業から遠ざかってしまいます。そんな謎めいた背景を併せて、注目の作品と言えるでしょう。
映画の内容はといえば、出資者の意向なのか、エログロも物語の破綻もなく非常にまともです。そして出演者も豪華。主人公のコソ泥ディマ役にオマー・シャリーフ(Omar Sharif)、大富豪の甥メレアーグラ役にピーター・オトゥール(Peter O’Toole)という「アラビアのロレンス」の2人を配しています。
また、当時、ドラキュラ役者として地位を確立し、007シリーズに出演するなど人気を博していたクリストファー・リー(Christopher Lee)が変人の大富豪ルドルフの役で登場します。
まともとはいえ、もちろんホドロフスキー作品らしい箇所も随所にみられます。異形の人たちも登場しますし、過剰にデフォルメされた描写も健在です。また、オマー・シャリーフの演技が心なしかパントマイム的なのも、若いころマルセル・マルソーと活動していたホドロフスキー監督の経歴に関係しているのかも知れません。
大富豪ルドルフが登場するのは物語の序盤、彼が親族を食事に招くシーン。人間より飼い犬のダルメシアンを大切にしているルドルフの晩餐は、犬にはキャビアとシャンパン、人間には骨というメニューです。
彼の遺産目当てで我慢していた親族たちもさすがに怒りますが、ルドルフは意に介せず、彼らを追い返し、お気に入りの娼館からレインボー・ガールズを招きます。
しかし、レインボー・ガールズと騒いでいる最中に心臓発作を起こし、そのまま昏睡状態に陥ってしまうルドルフ。親族たちは、彼の遺産が自分たちではなく、変わり者の甥メレアーグラに渡ってしまうことを危惧し、その対策を話し合いはじめます。遅れて到着して隣室からそれを聴いたメレアーグラは、話し合いに参加せず、愛犬のクロノスを連れて姿をくらまします。
それから5年後、メレアーグラは死んでしまったクロノスの剥製と共に、下水道内で部屋で暮らしています。隠遁生活を送る彼の世話をしているのはコソ泥のディマ。昏睡状態のルドルフが死に、メレアーグラに遺産が転がり込めば自分も大金持ちになれるという皮算用で面倒をみているのです。
ディマはコソ泥ですので、もめごとは日常茶飯事ですが、それなりに繋がっている人もいて、新聞売りのアンブローシアや、行きつけのバーの主人とは親しく付き合っています。
そんな街の人々や旅芸人たちと係わりながら、ときおりメレアーグラと喧嘩しながら彼を養い続けたある日、ルドルフが亡くなったというニュースが流れて彼らの暮らしが大きく動き始めます。
終盤、大雨が降って大量の水が下水に流れ込んでくる場面が圧巻です。どうやってこんな映像を撮ったのかと思うほど迫力あるシーンなのですが、その濁流の中で名優たちがもみくちゃにされながら演技しているのも見どころです。これもやはり資本力のなせる技なのでしょうか。
ということで、ホドロフスキー作品としてはちょっと異質な本作。刺激を求めて観る作品ではありませんが、素直に楽しめる1本だと思います。
公式サイト
ホドロフスキーの虹泥棒
[仕入れ担当]