英国王立園芸協会(Royal Horticultural Society)が主催するチェルシー・フラワーショー(Chelsea flower show)は、世界で最も権威あるガーデニング&フラワーショー。中でもショー・ガーデン部門は世界の名だたるフラワーデザイナーがエントリーする超難関だそうですが、そこで2002年に優勝したメアリー・レイノルズ(Mary Reynolds)の奮闘を描いた映画です。
実話ベースの物語ですので、やや紋切り型の展開になっていることは否めません。TV番組っぽい印象もあり、映画として高いレベルにあるとは言えませんが、日本ではあまり知られていないメアリー・レイノルズの思想を知るには最適な作品だと思います。
幕開けはメアリーの少女時代の記憶。アイルランドの片田舎で育った彼女は、近所にあった環状列石(ストーンサークル)と生い茂る野草に魅了されます。ガーデンデザインを志し、熱心にデッサンを続けるメアリー。
願いかなってダブリン在のデザイナーであるシャーロット、通称:シャー(Charlotte ‘Shah’ Heavey)のアシスタントに採用されますが、傲慢なシャーはメアリーのアイデアを盗むだけ盗んで彼女を追い出してしまいます。
何としても自分のデザインで庭造りをしたいメアリー。そこで考えたのがチェルシー・フラワーショーに出て注目を集めることでした。たった8つの出場枠に2000以上の応募が集まるフラワーショーですから、実績のない彼女の挑戦は無謀そのものです。しかし熱意で困難を乗り越え、見事、書類選考を突破します。
次なる困難は、彼女のデザインを実現する職人たち。野草を多用したガーデン作りには、田舎の趣を再現できる石工も必要ですし、何といっても野草をロンドンまで運ぶ技術が必要です。もちろんその費用も大きな問題です。
さまざまな方面に手を尽くしていたメアリーは、シャーロットのアトリエで出会ったクリスティという植物学者と偶然再会します。彼の助力を得ようと説得しますが、エチオピアの緑化に注力していた彼から、ガーデンデザインには興味がないと断られてしまいます。
しかし彼女は諦めません。クリスティの男性としての魅力と、デザイン実現のために必要な能力の二つに惹かれたメアリーは、エチオピアまで彼を追いかけていき、最終的に協力させてしまいます。その行動力こそが彼女の成功要因なのでしょう。本作ではそのあたりに重点を置いて、彼女の人となりを伝えています。
ちなみに、クリスティが手がけていたエチオピアの緑化プロジェクトは、新妻香織さんという福島の女性が主宰する「フー太郎の森基金」が行っていたもの。木を植えることによって、砂漠化をとめようという考えによるものだそうです。この映画との繋がりは、同基金のブログ(こちら)に詳しく記されています。
脚本・監督を務めたヴィヴィアン・デ・コルシィ(Vivienne De Courcy)はアイルランド出身で、1998年まで米国で弁護士として活躍していた人。2001年にアイルランドに戻り、弁護士の仕事と併行して本作の脚本を書き上げ、「エヴァの告白」等のプロデューサーで環境問題に取り組んでいるサラ・ジョンソン(Sarah E. Johnson)の協力を取り付けて映画化を成功させたという、これまた行動力ある女性です。
主演のエマ・グリーンウェル(Emma Greenwell)も、クリスティ役のトム・ヒューズ(Tom Hughes)もあまり実績のある俳優さんではありません。それがTVっぽい印象を与えている理由でもあるのですが、監督も製作者もメアリー・レイノルズのガーデンデザインに魅せられて映画化を目指したわけですから、実際の主役は野草とサンザシの木なのでしょう。
アイルランドの自然に対する考え方と英国の構築的な庭造りを対比しながら、文化的な違いを絡めて描いた映画です。ガーデニング好きの方、メアリー・レイノルズに興味をお持ちの方にはお勧めできると思います。
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