「ビフォア・ミッドナイト」のリチャード・リンクレイター(Richard Linklater)監督が12年以上の歳月をかけ、離婚した夫婦と子ども2人の家族の物語を、出演者の年齢の変化に合わせてフィルムにおさめた映画です。
その家族を演じているのは、母親オリヴィア役のパトリシア・アークエット(Patricia Arquette)、離婚した父親役のイーサン・ホーク(Ethan Hawke)、長女サマンサ役のローレライ・リンクレイター(Lorelei Linklater)、その弟メーソン役のエラー・コルトレーン(Ellar Coltrane)で、主に母親の再婚で変化していくメーソンにフォーカスして展開していきます。なおローレライ・リンクレイターは監督の実の娘だそう。
高校時代に知り合った2人が結婚して娘と息子をもうけたものの、ミュージシャン志望の夫はフラフラしているばかりで離婚。若くしてシングルマザーとなったオリヴィアは、サマンサ、メーソンとテキサスで暮らしているという設定で物語が始まります。
日々の生活に追われ、疲れ果てたオリヴィアは、もう少しまともな職に就きたいと、子どもたちをつれて引っ越してヒューストン大学へ復学。そこで知り合ったビル・ウェルブロック教授と再婚するのですが、子どもの躾(髪型まで!)に厳しい上に、アル中でキレやすい性格のビルに我慢ならなくなって、またもや離婚。
その間も、イーサン・ホーク演じるパパが、定期的にサマンサとメーソンに会いに来て、一緒に遊んだり、話し相手になったりしています。とはいえ、パパは相変わらずミュージシャンを目指してフラフラしているようで、定職に就いた様子はありません。
ちなみにこの時代のシーンで、パパと同居しているミュージシャンを演じているのはチャーリー・セクストン(Charlie Sexton)。テキサス出身で、来日公演をしたこともある本物のミュージシャンですが、映画の終盤、約10年後に彼の演奏シーンを見ることができます。また、エラー・コルトレーンの実の父親も地元で活動しているミュージシャンだそうで、本作にもストリートミュージシャン役で出演しています。
その後、オリヴィアはまた別の相手と再婚し、サマンサにボーイフレンドができたりメーソンがカメラに興味を持ったり、さまざまな変化があって、パパもようやくミュージシャンの夢を諦めて保険会社で働き始めます。
このように、子どもたちが成長していくだけでなく、大人たちも次第に変わっていくリアリティが、この映画の魅力でしょう。映画の終盤、ニコルという女の子がメーソンに向かって「みんなseize the momentっていうけど、それは逆でthe moment seizes usだって思うの」と言うシーンがありますが、まさにそういう映画だと思います。
2002年5月に撮り始めて、2013年8月に撮り終えたという本作。
ハリーポッターのブームや2008年のオバマフィーバーの様子が挟み込まれていたり、小学校時代のボンダイブルーのiMacが高校ではアルミボディに変わっていたり、同時代を生きてきた観客が、時代の空気感を蘇らせながら、感覚を共有できるように作られています。
そして音楽。シェリル・クロウからアーケイド・ファイアまで、イーサン・ホークの弾き語りやチャーリー・セクストンの演奏シーンも含めて、実に幅広い楽曲が使われています。
メーソンの誕生日に、パパがビートルズナンバーを自分で編集した“ブラックアルバム”という3枚組CDをプレゼントするシーンがあるのですが、実はこれ、イーサン・ホークが実の娘のために作ったものだそうで、曲目リストも公開されていています。映画の物語と私生活の境界が曖昧になっているところも、この映画のリアリティを支えている部分なのかも知れませんね。
公式サイト
6才のボクが、大人になるまで。(Boyhood)
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