学生時代、西洋史をおざなりにしていた私にとって、欧州映画を観ることは遅まきながらのお勉強でもあります。そういう意味で、中欧(旧共産圏)の国々が舞台の映画は、それほど評判になっていなくても、観に行ってみようかという気にさせてくれます。
このポーランド映画も、上映館が岩波ホールですし、もの好きしか行かない映画だと思って出掛けたのですが、意外や意外、けっこう面白い作品です。さすがアンジェイ・ワイダ(Andrzej Wajda)監督、暗鬱なテーマの映画を撮り続けて、巨匠と呼ばれるまでになった人だけのことはあります。
主人公のワレサ議長=レフ・ワレサを演じたのが「ソハの地下水道」で主演を務めたロベルト・ヴィェンツキェヴィチ(Robert Więckiewicz)。そしてその妻、ダヌタ・ワレサを演じたアグニェシュカ・グロホフスカ(Agnieszka Grochowska)も同作に出ていた女優さんです。
映画は、レフ・ワレサが造船所の労働組合を率い、独立自主管理労組「連帯」をまとめ上げるまでの経緯を、イタリア人ジャーナリストのオリアナ・ファラチ(Oriana Fallaci)がインタビューするという形式で、随所に実写フィルムを挟みながら展開していきます。
このオリアナ・ファラチという女性、アラファトやカダフィ、パーレビ国王やホメイニ師といった各国の指導者をはじめ、キッシンジャー長官とボー・グエン・ザップ大将の双方にインタビューしたという非常に有名な方だそうです。その役を、マリア・ロザリア・オマジオ(Maria Rosaria Omaggio)という女優さんが演じているのですが、映画に登場する毛皮のコートやカメオのブローチ、テープレコーダーなどはご本人の親族から借りた遺品だそうです。
この映画の良いところは、レフ・ワレサを特に持ち上げたりせず、立ち回りのうまい、小市民的な男として描いているところ。最初に逮捕されるシーンでは、子どもが生まれそうだから早く出してくれと頼んだり、公安への協力を承諾して釈放されたりしますし、その後も裏から手を回してベビーカーを手に入れたりします。
また、妻のダヌタ・ワレサの庶民的な部分に焦点をあてたのも良かったと思います。レフ・ワレサが解雇されたときや、有名になって自宅に人の出入りが絶えなくなったとき、感情的になってレフ・ワレサにあたり散らしたりします。
また、レフ・ワレサがノーベル平和賞を受賞した際、本人が出国するとそのまま入国できなくなる可能性があるということで妻のダヌタが授賞式に赴くのですが、帰国時に嫌がらせで身体検査をされ、脱ぐように命じられた下着を平和賞のメダルの上に置くあたり、こういうエピソードを持つような気の強い妻あってのレフ・ワレサなんだなぁと感じ入りました。
使っている音楽も、反体制色の強い現地のロックですし、とても小気味良く展開していく映画です。岩波ホールで鑑賞するのはちょっと面倒かも知れませんが、TVで放映されたときなど、ぜひご覧になってみてください。予想以上に楽しめると思います。
公式サイト
ワレサ-連帯の男-(Wałęsa-Człowiek z nadziei)facebook
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