映画「ソハの地下水道(W ciemności)」

Darkness0 この夏に観た「あの日 あの時 愛の記憶」も、第二次大戦中のポーランドを題材にした作品でしたが、この「ソハの地下水道」も同じ時代背景の作品です。

ナチスの強制収容所送りを避けるために下水道に逃げ込んだユダヤ人たちと、下水修理の職人ソハが繰り広げる物語。

このとき、実際に下水道で暮らし、その後、イスラエルに脱出した女性から聞き取った実話に基づく映画だそうです。今年のアカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされました(受賞作はイランの「別離」)。

下水修理を生業にしながらコソ泥も働き、盗品を下水道に隠して暮らすソハと若い相棒。

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ある日、下水道内に響いてくる音に気づき、近くに行ってみると、ゲットーの床下から下水道に向けて穴を掘っているユダヤ人たちを発見します。

怯えるユダヤ人たちに対してソハは、自分は下水道をすみずみまで熟知しているから守ってあげることができると提案。もちろんコソ泥のソハのことですから、無料ではありません。ドイツ軍への発覚を怖れる相棒に対しては、いつでも通報できるのだから、絞り取れるだけ絞り取ろうと説得します。

ソハの導きによって下水道で暮らし始めたユダヤ人たちの中には、悪臭漂う暗闇での生活に耐えきれず、逃げ出して強制収容所に送られる人もいますし、耐乏生活のストレスでいがみ合いも生じます。

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下水道内でユダヤ人たちの小さなドラマが展開している間も、ドイツ軍による抑圧は続き、ソハと相棒は何度も危機に瀕します。ユダヤ人を匿っていることを知った妻とも関係が悪化します。

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そのうちにユダヤ人たちの資金が尽き、食費すら支払えなくなりますが、結局ソハは、ソ連軍の侵攻でドイツ軍が去るまでユダヤ人たちを守り続けます。

ヒューマニズムなどとは関係なく、ただおカネ目当てで匿っていただけなのに、彼らの生活の世話をしているうちに情が移ってしまったのです。人間味溢れる、地に足の着いたドラマと言えるでしょう。

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この物語の舞台となったリヴィウ(Lwów)という町は、戦前はウクライナ人が支配していましたが、その後、ポーランド領に編入されてドイツ軍に占領され、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国が奪回した後、1991年のソ連崩壊でウクライナとなります。

あの日 あの時 愛の記憶」のときに記したようにポーランドの現代史も非常に複雑ですが、このリヴィウの町はさらに複雑な背景を抱えており、さまざまな武力衝突に巻き込まれ翻弄された土地のようです。そういった歴史を考えると、この町に暮らすソハが軍部=時の権力と距離をおくのも、帰属意識の希薄さ故かも知れません。

主人公のソハを演じたロベルト・ヴィエツキーヴィッチ(Robert Więckiewicz)は、ポーランドを代表する俳優さんだそうで、現在制作中のアンジェイ・ワイダ監督「ワレサ(Wałęsa)」では、主人公のワレサ議長(Lech Wałęsa)を演じるとのこと。

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そういえばアンジェイ・ワイダ監督(Andrzej Wajda)が世に出たのは、ポーランドの抗独運動を描いた「地下水道(Kanał)」という作品でした。邦題もそのあたりを意識して決めたのでしょうか。

公式サイト
ソハの地下水道W ciemności / In Darkness

[仕入れ担当]