映画「ビフォア・ミッドナイト(Before Midnight)」

Before0 楽しみにしていた方も多いかと思います。1995年の「ビフォア・サンライズ」、2004年の「ビフォア・サンセット」に続く3作目が、先週末に公開されました。

ウィーン、パリと、絵になる街で撮られてきたこのシリーズですが、今回の舞台はイオニア海を臨むギリシャのメッシニア。ジェシー役のイーサン・ホーク(Ethan Hawke)が、カラマタ空港で息子のハンクを見送るシーンからスタートします。

わたし自身、前作ではセリーヌ役のジュリー・デルピー(Julie Delpy)が本のサイン会に現れたシーンと、ニーナ・シモンの曲で踊るシーンぐらいしか覚えてなくて、「この子は誰の子?」と思いながら観ていたのですが、その後の展開でジェシーと前妻の間にできた子どもであることがわかります。

そんな訳で、1作目、2作目のディテールを忘れていても、ちゃんと楽しめるようにできていますが、今回のテーマがミッドライフクライシス(≒中年の危機)ですので、前作までの情熱的な二人を反芻しておくとより楽しめることでしょう。

ハンクを見送ったジェシーはセリーヌと共に車に乗り込み、双子の娘を後部座席で眠らせたまま、例によって止めどもない会話をしながら、彼らが滞在している友人の家に向かいます。

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この海辺の家でも、友人たちと延々と会話しながら、葡萄の葉やトマトのドルマの午餐をとるのですが、このお家の佇まいがとっても素敵です。

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ジェシーとセリーヌを招いたこの家の主がパトリックという役名で登場しますが、実際にこの家を建てて暮らしていたのは、アイルランド人作家のパトリック・リー ファーマー(Patrick Leigh Fermor)とその妻ジョアンだそうで、こういう細かい仕掛けもこの映画の見どころの一つです。

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ついでに書くと、トースターに頭を突っ込んだ云々という会話で出てくるシルヴィア・プラス(Sylvia Plath)は、1963年に自殺した米国の詩人で、10年ほど前にグウィネス・パルトロー主演で映画化されています。その他、エリック・ロメールの「緑の光線」を思わせる日没のシーンや、「真夜中の恋愛論」のジャン=ユーグ・アングラードとマリー・トランティニャンを思わせる寝室での諍いなど、一つ一つ挙げていけばキリがありません。

全編、ほぼ2人の会話だけで展開していくこのシリーズですが、一見、アドリブっぽい会話もすべて脚本に書かれた通りだそうで、そういう作り込みの細かさが、高い人気を誇る理由なのでしょう。

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たとえば2人が言い争うシーン。女は感情的で男は理性的だという立ち位置からモノを言われたときの癇に障る感じや、イラッとしている自分に苛ついて、何でもいいから当たりたくなる気分。こういう感覚が端的に表現されていて、ところどころ思わず苦笑いしてしまいます。

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ということで、3作目も楽しい作品でした。本作を観た感じでは、まだまだ続編が作れそうですので、元ネタは「愛、アムール」といわれるぐらいまで頑張って欲しいものです。次作はポルトガルあたりを舞台にしてくれるといいですね。

公式サイト
ビフォア・ミッドナイトBefore Midnight

[仕入れ担当]