昨年のカンヌ映画祭で話題になったデンマーク映画です。パルムドールや監督賞は獲れませんでしたが、「007 カジノ・ロワイヤル」「シャネル&ストラヴィンスキー」でお馴染のマッツ・ミケルセン(Mads Mikkelsen)が主役を務め、コンペティション部門の男優賞を獲得しています。
舞台はデンマークの片田舎。勤めていた小学校が閉鎖になり、幼稚園の職員として働くルーカス。そういった事情もあって離婚していますが、妻と暮らす息子とはそれなりに心が繋がっています。
幼稚園の生徒であるクララは親友の娘。ルーカスに懐いていて、それは幼い恋心のようにも見えますが、単に両親が喧嘩ばかりしているせいで寂しいだけかも知れません。
ある日、兄のiPadでポルノを見せられたクララは、それと現実がないまぜになり、幼稚園の園長に向かってルーカスに不適切な行いがあったような話をします。それにショックを受けた園長は、悩んだ末にそれを公にして司法の判断に委ねる道を選びます。
性犯罪の容疑を突きつけられたルーカスは、地域のコミュニティから白い目で見られ、幼少の頃から付き合ってきた狩猟仲間からも排除されます。
男性たちのマッチョな精神性と、その裏側に潜む女性たちの怯えが呼応し合い、社会的にも精神的にも追いつめられていくルーカス。デンマークの清々しい風景と対比するように、地域住民たちの陰鬱な精神性が精緻な映像で描かれていきます。
ちなみに原題の"Jagten"は「狩猟」という意味だそう。ルーカスと狩猟仲間を意味すると同時に、魔女狩りのようにルーカスを追いつめていく地域性を暗喩しているようです。
物語の終盤に、ルーカスの息子が狩猟の資格を得て、猟銃を贈られるシーンがあります。狩猟仲間に加わるためのイニシエーションですが、こうやって彼らの価値観が継承され、閉鎖的な社会の中で醸成されてきたわけです。
ちょうどこの映画を観たころ、5歳の男の子が誕生日に買ってもらったライフル銃で妹を誤って射殺するという事件が米国であり、Slateに掲載されていたクリケット・ライフルのCMや、Mother Jonesに掲載されていた写真を観てあきれ返っていたところでしたので、より一層、彼らのマッチョな価値観が気になったのかも知れません。
エンディングは、ちょっとした謎を残す仕掛けになっています。トマス・ヴィンターベア(Thomas Vinterberg)監督は何パターンものエンディングを撮影し、その中には明確に結論づけるカットもあったそうですが、最終的にこの結末を選んだそう。
光の向こう側に立っていたのはクララの兄なのか、はたまた単なる幻影なのか。それを想像しながら登場人物たちの心象風景を遡っていくことで、また新たな視点が得られそうな作品です。
[仕入れ担当]