このブログでは、映画好きのお客様にお勧めしたい映画のみをご紹介しているのですが、はっきり言ってこの「ホーリー・モーターズ」は全然お勧めではありません。
レオス・カラックス(Leos Carax)監督の「ポンヌフの恋人」に至る3部作が大好きで、その後、彼がどうなったか確認するために観てみるという類いの映画です。
映画は、ドニ・ラヴァン(Denis Lavant)扮する主人公が、白いストレッチリムジンでパリ市内を巡り、その場所その場所で誰かに扮装して街に降り立ち、小さな物語が演じられるというオムニバス(乗るのはリムジンですが)のような構成になっています。
最初に車に乗り込むときは、豪邸から出勤する裕福なビジネスマンですが、楽屋のようになっているリムジンの中で着替えと特殊メイクを済ませ、次に車外に出るときは、物乞いの老婆の姿になっているという次第。ドニ・ラヴァンが11の物語それぞれの役になりきって怪演します。
この主人公は誰かから発注されて、演じる「仕事」をしているようです。運転手のセリーヌは、主人公が車に乗り込む度に、次のアポ=仕事のファイルを渡します。それを確認してメイクに取りかかり、かなり大変そうな「仕事」を一つずつ為し遂げていきます。
途中でミシェル・ピコリ(Michel Piccoli)演じる、この「仕事」の発注者のエージェントが車に乗り込んできて、彼の仕事を称賛しつつ、彼の仕事に疑念を持つ人たちもいると指摘します。
きっと、かつて三部作のドニ・ラヴァンがカラックスの分身だといわれたように、主人公は「良い仕事をしつつ、能力に疑問を持たれている」カラックスの鏡像なのでしょう。
ですから物乞いの老婆が足を引きずるシーンも、終盤のサマリテーヌ百貨店も、カラックスファンにとってはデジャブそのものですし、急に車を停めて銀行家を撃ち殺しに行くシーンはカラックスの私怨に他ならないのです。
最近はチャイナタウンの近くに住んでいるというカラックス。Tang Frères(陳氏商場)の荷捌き場のようなシーンを観ていると、経済的な事情で手近な場所で撮ったのかな、と勘ぐってしまいます。
いくつかのシーンは、さすがカラックスと思わなくもないのですが、あまりにも私情を挟み過ぎ。それもネガティブな感情を盛り込み過ぎです。
喩えて言えば、かつてのクラスの人気者と久しぶりに会ったら、二言目には「大企業はダメだ」とか「大切なのはカネじゃない」とか言う不遇な人になっていて、聞いているこちらが切なくなってくる感じ。ジュリエット・ビノッシュ(Juliette Binoche)も、出演しなくて良かったと思っていることでしょう。
というわけで、全然お勧めではありませんが、カラックス最後の長編映画になるかも知れませんので、気になる方は映画館で観ておくべきかも知れません。
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[仕入れ担当]