ちょうど一年ほど前、マラババ(Malababa)のデザイナー、アナさんがお勧めしているのを見て(このFacebookページです)、ずっと気になっていたのですが、ようやく東京で劇場公開されました。アナさんが記しているように、とっても面白いスペイン語のブラックコメディです。
南米唯一のコルビュジエ建築であるブエノスアイレスのクルチェット邸(Casa Curutchet)で暮らす主人公一家。プロダクトデザイナーとして成功したレオナルドと、ヨガのインストラクターである妻のアナ、反抗期の一人娘のローラの三人家族(それに家政婦のエルバ)です。
ある日、突然、ハンマーの音が聞こえてきて、レオナルドが窓の外を見ると、向かい合った隣家の壁を壊す工事業者の姿。自宅の内部が丸見えになってしまうので違法だと文句を言って、工事の発注者である隣人と話し合うことに。
隣人のビクトルは、強面で威圧的な雰囲気の男ですが、とりたてて対決姿勢を取るわけでもなく、「室内に陽光を入れたいだけなので許可して欲しい」と低姿勢です。
それだけでなく、隣人同士、仲良くすべきだと、レオナルドの私生活にどんどん入り込んできます。窓から覗かれる不安だけでなく、ストーカー的な恐怖も感じるようになり、住居内に防犯用の非常ボタンを取り付けるレオナルド。
どうにか穏便に折合いをつけようと妥協点を探るレオナルドですが、妻のアナはあくまでも強行姿勢を崩しません。娘のローラは親との会話を拒絶しているし、八方塞がりのレオナルドは仕事も停滞気味です。壁の穴が開いたことをきっかけに、今まで封じ込まれていた家庭内の問題が噴き出してくる感じです。
そんな舞台劇のようなストーリーに彩りを添える、というか映像的に重要な位置を占めるのが、ル・コルビュジエの1954年の作品、クルチェット邸です。意匠が特徴的なテラスや、大木を囲みように設計された吹き抜けのスロープなど、この建物の魅力がいたるところに織り込まれています。
そして、そこで生活するプロダクトデザイナーの家族という設定から、小道具も洒落ています。上の写真に写り込んでいるイスはコルビュジエの LC4 Chaise Longue ですが、レオナルドの作品という設定で各所に配置されているイスは、アルゼンチン人デザイナーの Diego Batista(Batti) がデザインした Placentero Chair(プレセンテーロ)。
リビングで使っている電話は、Bang & Olufsen の BeoCom 2 ですし、夫婦ともどもMacBookユーザーなのですが、アナは Speck の真っ赤なカバーを使っていたり、出てくるアイテムも「それらしい」ものばかりです。
対するビクトルはといえば、全体的に「ちょっと悪趣味」なライフスタイル。その対比が映画の軸になっているのですが、ある意味、地に脚が付いた感覚でもあり、ビクトルが見せる指人形に娘のローラが惹かれていったり、その開けっ広げな性格にレオナルドが思わず妥協してしまったり……。威圧的な風貌ですが、ただ威嚇するだけで、実は好人物というキャラクターが、ひねりの効いた結末に繋がっていきます。
個人的にコルビュジエ建築が好きなので、映画の内容以上に楽しめたように思いますが、建築やデザインに興味がある方はもちろん、それ以外の方にも楽しめる映画だと思います。
ついでに、コルビュジエ建築に泊ったときのお話を書こうと思っていたのですが、写真をたくさん載せたいので、この続きは明日のブログにします。
公式サイト
ル・コルビュジエの家(L’Homme d’à côté)
↓映画館でいただいた、大成建設特製のしおりセットです。
[仕入れ担当]