もう少し早くご紹介したかったのですが、かなり重たい内容ですので、クリスマス・シーズンにどうかなぁと、ちょっと躊躇していました。個人的にはとても良い映画だと思います。心を大きく揺さぶられました。
物語は、母親が亡くなり、その遺書を双子の姉弟が受け取るところから始まります。現在はカナダで暮らすこの家族ですが、母親は中東から戦乱を逃れてきた移民です。遺書の内容は、姉弟の父と兄を探し出して、封書を渡すこと。父は内戦で亡くなったと聞かされていましたし、兄の存在など知る由もありません。
弟は「母はちょっと変わり者だったから、こんな妙な遺言を残すんだ」と取り合おうとしませんが、姉は理解しきれなかった母親の本当の姿を知りたいと、母の祖国である中東に渡ります。
冒頭、アラブ系の少年たちがバリカンで丸刈りにされ、髪の毛が粗末な土間に落ちていくシーンが写ります。ちょっと知識がある人なら、中東やアフリカの混乱した国で、貧しい少年たちが幼年兵に駆り出されているとわかるシーンなのですが、この映画の伏線となる非常に重要な場面です。
姉は、古いパスポートの写真を頼りに、母親の過去を辿っていき、この国や周辺国の内戦と混乱の中で、若かった母親がしたこと、故郷の小さな村で起こったことなどが少しずつ明らかになっていきます。そしてこの姉弟は、なぜ母親が過去を語ることがなかったのか、衝撃的な事実を知ることになります。
特に女性がみると、この母親の痛みがリアルに伝わってくる内容です。てっきり原作者か監督が女性なのかと思っていたら、どちらも男性なので驚きました。
また、もともと舞台で上演していた戯曲を映画化したということにも驚きました。宗教や民族と暴力の狭間で選択を強いられる女性の姿を描くという、圧倒的な世界観をもった物語です。憎しみの連鎖をどう断ちきっていくか?平和とは?救いとは?映画を観ることで、いくつもの課題を突きつけられます。
原作者はレバノンからの移民だそうです。主人公はフランス語を話しますが、これはケベックの映画だから。原作者も監督も初めて見る名前ながら、内容的に非常に高いレベルで、アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされたというのも納得です。ちなみにこのときの受賞作は「未来を生きる君たちへ」。どちらも移民、憎しみの連鎖を扱っていることに時代性を感じます。
[仕入れ担当]