映画「グリード(Greed)」

Greedファストファションで財を為した主人公の強欲さを笑うブラックコメディです。マイケル・ウィンターボトム(Michael Winterbottom)監督が、金儲けする側と搾取される側を対比させて描いていく映画と聞くと、ひと昔前に彼が創っていたような社会派ドラマを想像してしまうかも知れませんが、どちらかというと近作のグルメ旅映画「イタリアは呼んでいる」「スペインは呼んでいる」と似たノリの、ニヤッとさせるような小ネタを絡めた気軽な作品になっています。

主役は上記2作でも軽口を叩きまくっていたスティーブ・クーガン(Steve Coogan)。相変わらずのマシンガントークでセレブや堅物をコケにします。この映画の面白さは、彼が立て続けに繰り出す小ネタを理解できるかどうかに左右されますので、ある意味、観客を選ぶ作品かも知れません。ファストファション業界と欧米セレブのゴシップに関する知識がそこそこあれば、笑える場面が多々あるかと思います。

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スティーブ・クーガン演じる主人公のリチャード・マクリディは、アパレルチェーンのTOPSHOPなどを保有していたアルカディア・グループのオーナー、フィリップ・グリーン卿(Sir Philip Green)をモデルにした人物。髪型や白い歯といった外見は、グリーン卿の友人であり、ビジネスでも強い結びつきを持っていたリチャード・カーリング(Richard Caring)を参考にしているようです。これにグリーン卿の元妻、ティナ・グリーン(Tina Green、本名はChristina Green)のはしたなさを戯画化したサマンサが興を添えます。

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映画の舞台となるのはギリシアのミコノス島で、リチャード・マクリディの60歳の誕生パーティーの準備で起こるドタバタと悲劇を描いていきます。そのパーティというのがグラディエーターをテーマにしたトーガパーティ。ローマ風アリーナを急ごしらえで作り、参加者がトーガを着て、ライオンと剣闘士の戦いを見物しようというど派手なものです。その上、有名歌手を招聘してショーまで行おうというのですから、下品な金持ちの典型といったところでしょう。

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実はこれにも元ネタがあって、グリーン卿は50歳の誕生日の際、キプロスのアナッサ ホテル(Anassa hotel)に200人以上のゲストを集め、500万ポンドかけて4日間のパーティを開いています。最終日にはホテル内に設えられた円形劇場でトーガパーティを行ったようですが、そこに至る演し物も豪華で、45分歌ったロッド・スチュワートへは75万ポンド支払い、その他、トム・ジョーンズやジョージ・ベンソン、アース・ウィンド・アンド・ファイアといった出演者への支払いを合わせると合計250万ポンドに上ったそうです。

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映画の中でトム・ジョーンズのギャラに言及している裏にはこんなゴシップがあるわけです。ついでにわかりにくい小ネタを一つ挙げれば、リチャードの娘リリーのボーイフレンドであるファビアン。オリー・ロック(Ollie Locke)というTVタレントが演じているのですが、彼はグリーン卿の娘であるクロエがリアリティ番組(Made in Chelsea)に出演したときに知り合い、実際に交際していた男性です。つまり実在の娘の交際相手が、劇中の娘役の交際相手を演じているわけで、なかなかイジワルな仕掛けになっています。

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ミコノス島には元妻や家族のほか、関係者やセレブを招待しています。しかし近くの海岸には海を渡ってきたシリア難民がキャンプしていて、パーティを企画している側からすると目障りです。そこで彼らを移動させようとしたり、使おうとしたり、さまざまな関係が生じてくるのですが、その接点になるのがマクリディのスタッフの一人であるアマンダ。スリランカ出身の彼女が英国に渡ってきた理由と、リチャード・マクリディが廉価なアパレルで儲けられた理由、つまり南アジアの縫製工場におけるスウェットショップの問題が絡み合ってきます。

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そういったリチャード・マクリディの経歴を陰陽の両面から見ているのが伝記作家のニック。マクリディが自らのバイオグラフィを書かせようと雇ったライターで、マクリディの関係者にインタビューを行い、マクリディの仕事の現場を見に行きます。観客はニックの経験を追うことで、マクリディの生い立ちから、強引な値切り交渉や金融犯罪すれすれの企業買収、その帰結である法的問題まで俯瞰的にみられますので、彼の止め処も無い金銭欲や権力を誇示したがる理由を根源から伺い知ることができます。さすがウィンターボトム監督、うまいやり方です。

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使われている音楽も気が利いていて、オープニングのファットボーイスリムのPraise Youで、称賛して欲しいというマクリディの心情をさらっと伝えます。そして終盤近くでかかるのはアバのMoney Money Moneyでまさにこの映画の要諦。中盤でかかるグルーヴ・アルマダのAt the Riverはおそらくマーク&スペンサーの広告に絡めたものでしょう。直接は非難しませんが、ZARAやH&Mだけでなく、チェーン展開しているアパレルすべてが何らかの形で断罪される映画です。ちなみに映画で何度も言及されるハイストリートブランドというのは、ハイストリート(大通り)に大箱の店舗を構えるSPAのこと。英国ではTOPSHOPやPrimarkが代表的ブランドでしょう。

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もうひとつ、この監督らしい仕掛けが、舞台であるギリシャに因んでオイディプス神話を絡めているところ。EUの南端に位置し、リゾート地であると同時に難民の目的地になりがちという点でギリシャが選ばれたのだと思いますが、息子のフィンが思いがけず父殺しに荷担し、結果的に冷酷なファッション帝国が引き継がれていくところに、ある種の運命論的な見方が現れているような気がします。それはアマンダの新しい仕事からも感じられるものです。

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アマンダが母親について語るくだりは蛇足だと思いながら観ていましたが、TOPSHOPから若者顧客を奪ったといわれるEC専業ファストファッションのBoohooが、英国内でスウェットショップを行っていたと報じられたりしていますので、グローバル化が進んだこの時代、アマンダのように移民してきても、巡り巡って親と同じ運命を歩んでしまうものなのかも知れないと思い直しました。

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