映画「アメリカン・アニマルズ(American Animals)」

animals おバカな大学生が犯した強奪事件を題材にした不思議な映画です。

不思議な、というのは、プロの役者を配して事件の経緯を再現する一方で、当事者(つまり犯罪を犯した張本人)を解説者的な役割で登場させるところ。監督を務めたバート・レイトン(Bart Layton)はドキュメンタリー映画出身の人だそうですが、劇映画にドキュメンタリー映画の要素を上乗せした作品と言えばよいのでしょうか。

当事者たちは既に刑期を終えているわけですから、この映画で再びさらし者にして良いのかという疑問もありますが、どうやら本人たちが目立ちたがり屋&出たがり屋のようなので、きっとその点は問題ないのでしょう。

そういう映画ですので、まず主役が誰なのかというあたりから話がややこしくなるのですが、主たる語り手はトランシルヴァニア大学の学生だったスペンサー・ラインハード(Spencer W. Reinhard)で、彼を再現フィルム風に演じたのが「ダンケルク」「聖なる鹿殺し」のバリー・コーガン(Barry Keoghan)。本作でもあの奇妙な存在感は健在です。

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そしてその共犯者であり、最終的にはこの犯罪を主導することになるウォーレン・リプカ(Warren C. Lipka)を演じたのがエヴァン・ピーターズ(Evan Peters)。その他、巻き込まれるかたちで荷担したエリック・ボーサク(Eric J. Borsuk)とチャールズ・T・アレン2世(Charles T. Allen II)をそれぞれとジャレッド・アブラハムソン(Jared Abrahamson)と「エブリバディ・ウォンツ・サム!!」の主役ブレイク・ジェンナー(Blake Jenner)が演じています。

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事件の発端は、スペンサーが大学のオリエンテーションで図書館を見学したこと。特別室にジョン・ジェームズ・オーデュボン(John James Audubon)の画集「アメリカの鳥類(The Birds of America)」が飾られており、時価1200万ドルと聞いて衝撃を受けます。それをレキシントンで幼馴染みだったウォーレンに話し、共に大学生活に失望していた2人はそれを盗み出すことを夢想し始めます。

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スペンサーは比較的まともで、犯罪を夢見る現実逃避と、実行した際のリスクをそれなりに認識していたようです。しかし、ウォーレンは、スポーツ奨学生として入学したものの練習をさぼりがちで、それが問題化していたこともあって、どんどん空想世界にはまっていきます。

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とはいえ、田舎の大学生ですから周到な犯罪計画など立てられるはずがありません。犯罪映画を観てアイデアを膨らませ、FBI志望のエリックと学生起業家のチャールズを呼び込み、特殊メイクで老人に化けて図書館への侵入を図りますが、1人しかいないはずの司書のところに会議か何かで人が集まっていて頓挫します。

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その時点で3人はめげるのですが、ウォーレンの執着心だけは異様に強く、彼の説得に負けた4人はFBIに逮捕されるところまで突っ走ってしまうことになります。そこにいたるまでの緊迫感と盛り上げが監督の腕の見せ所でしょう。

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この映画の面白さは、冒頭に書いたように、当事者がそのときの心境や状況を解説すること。それぞれが語る内容に微妙なズレがあり、各自が記憶を上書きしている可能性があるとはいうものの、温度差のある4人がズレた意識で犯罪に向かっていく時点で失敗することが見えているわけです。

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結局のところ、青春の愚かさを最大限まで拡張してみせる映画なのでしょう。誰もが殻を打ち破りたい、何かやらかしたいと思いつつ、現実と辻褄を合わせながら平凡な人生を送るわけで、そのとき突っ走っていたらどうなったか、怖い物みたさのような気持ちをどこかで抱えているはずです。たまたま彼らは歯止めがきかなくなり、行くところまで行ってしまったことで、その後の人生を大きく変えざるを得なくなったというだけではないでしょうか。

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再現フィルム的な劇映画の中では、バリー・コーガンの演技が光ります。実際のスペンサーはどちらかというとアンドリュー・ガーフィールド風の細面なのですが(下の写真)、あまり似ていないながら、両親の顔がちらついて躊躇し、友人の顔を潰さないように覚悟を決め、それでも気持ちが萎えていく心の変化をリアルに表現しています。くせのある役者ですが、これからどう変わっていくか楽しみです。

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公式サイト
アメリカン・アニマルズAmerican Animals

[仕入れ担当]