ダミアン・ハースト Treasures from the Wreck of the Unbelievable 展

今年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で話題をさらったダミアン・ハースト(Damien Hirst)の Treasures from the Wreck of the Unbelievable 展。5月末にイタリアに行く機会があり、幸運にも立ち寄ることができました。

場所は、フランソワ・ピノー氏が率いるピノー財団の2つの現代アート美術館、パラッツォ グラッシ(Palazzo Grassi)とプンタ デッラ ドガーナ(Punta della Dogana)。この2館で1人のアーティストの展覧会を同時開催するのは初めての試みだそうです。

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フランソワ・ピノー氏については言わずもがなですが、グッチやサンローランなどのラグジュアリーブランドを保有するフランスの Kering グループ(元PPR)の元会長で、世界的に有名なアートコレクター。ちなみにパラッツォ グラッシは、息子のフランソワ・アンリ・ピノー氏と女優のサルマ・ハエックの出会いの場所だそうで、ハリウッドセレブやシラク前仏大統領などそうそうたる面々を招待しての豪華な結婚披露宴(パリに続く2回目!)も行われました。

今回ブログでご紹介するのは、そのパラッツォ グラッシに続いて安藤忠雄氏が2009年に現代美術館へと再生させたプンタ デッラ ドガーナ。

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上の写真はサンマルコ広場の鐘楼から撮ったものですが、大運河の向こうに見える三角形の建物で、15世紀に建てられた「海の税関」だったそう。wikipediaにはピノー氏がヴェネチア市との33年間の契約にサインしたとありますので、正確には定借ということになるんでしょうね。

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古い煉瓦壁と木の梁に、安藤忠雄氏のホールマークである打ちっ放しコンクリートが美しく調和しています。

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ピノー氏は安藤忠雄氏がお気に入りのようで、ルーブル美術館とポンピドー・センターの間に位置する「ブース・デ・コマース」(商品取引所)の建物も、この二人のタッグで美術館に改修し、2019年初めに開業予定だそう。

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さて、本題の展覧会です。目録の冒頭に、ウィリアム・シェークスピア「テンペスト」からの引用があります。

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(わだつみの五尋の底、臥すは父、骨は珊瑚、目は真珠。朽ちゆくものみな、海のめぐりうけ、尊きものに成りかわる)

エアリアルが歌う有名な詩句で、この一節に触発された芸術家は多いようですが、ダミアン・ハーストの手にかかると壮大です。

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2000年前にインド洋に沈んだとされる難破船が2008年に発見され、その財宝を海底から引き揚げ、考古学的遺物として展示したという虚構のストーリーを展開。今流行の(?) "フェイク" も、ここまでやるか、というほどの徹底ぶりです。

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2000年もの間、海底に眠っていた感じを出すために、わざわざ彫刻に珊瑚やフジツボなどの海底の生き物を付着させ・・・

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それらしく見せるために、発掘された装飾品、武器や武具などが、大英博物館などで見られるような演出で展示されています。

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さらに驚いたことに、海底での発掘作業を撮影した記録映像まで上映。

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写真でスケール感をお伝えできないのが残念ですが、1階の巨大な展示物は圧巻です。どれだけお金がかかって、会期終了後、これらの作品はどうなるのだろう?と、庶民はただただ不思議に思ってしまいます。

クリスタルのメデューサもあれば・・・

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ゴールドのチャーミングな頭像もあります。目録もひとつひとつの作品に考古学的な解説がついている凝りようで、脱帽としか言いようがありません。

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中には、さすがに2000年前にはなかったよね、と思うようなものも展示されていますが。The Collector and Friend というタイトルがなんともアイロニカルです。

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難破船「アンビリーバブル号」の財宝のめくるめく世界・・・ここまでの展覧会ができるアーティストというのは、そうそういないのではないでしょうか。久しぶりに芸術のパワーというか、アーティストの執念と執着を強く感じた展覧会でした。

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今年の12月3日まで展示されています。この夏、この秋にイタリアへ行かれるご予定のある方は、チャンスがあれば、ぜひ行かれてみてください。

もうひとつのパラッツォ グラッシの方も必見です。ぜひ2館ともご覧ください。

ダミアン・ハースト
Treasures from the Wreck of the Unbelievable 展
2017年12月3日まで
ヴェネチア:Palazzo Grassi、Punta della Doganaの2館で開催
http://www.palazzograssi.it/

[仕入れ担当]