映画「歓びのトスカーナ(La pazza gioia)」

00 先週はスペインでしたが、今週はイタリア映画界の最高賞、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の受賞作です。2017年度の作品賞、監督賞、女優賞など5部門に輝きました。

監督は「人間の値打ち」のパオロ・ヴィルズィ(Paolo Virzì)。主人公のドナテッラ役を監督の妻でもあるミカエラ・ラマッツォッティ(Micaela Ramazzotti)、彼女と行動を共にするベアトリーチェ役を同監督の前作でドナテッロ賞を獲っているバレリア・ブルーニ・テデスキ(Valeria Bruni Tedeschi)が演じます。心の病を抱えた2人の女性が束縛から解き放たれ、不思議な絆を育んでいく物語です。

映画の幕開けは岸壁沿いの自動車道とその向こうに広がる紺碧の海。誰かが歩道を歩いていますが、カメラの前を通り過ぎていく列車が邪魔してよく見えません。美しすぎる風景が不安感を刺激する印象的な映像です。監督の出身地であるリヴォルノ(Livorno)の海岸なのでしょうか。

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続く場面は精神医療施設の明るい庭。日傘を差した女性が歩いてきて、ワゴン車に乗り込もうとしますが、周りに押しとどめられます。そのハイテンションな女性が自称・伯爵夫人のベアトリーチェ。常に何か語っているのですが、その内容があまりに高飛車で、虚言癖がありそうです。そこに車で運ばれてくるのがドナテッラで、なぜか彼女にベアトリーチェが強い興味を持ち、カルテを覗き見ようとしたり、接触を持とうとしたりします。

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身体全体に入れ墨、手首に無数の傷というドナテッラ。自傷癖がありそうです。その入れ墨を見て、何故こんな入れ墨を入れたの?と否定的に訊ねるベアトリーチェですが、持ち前のあっけらかんとしたキャラクターのおかげで、それほど嫌味に聞こえません。思ったことがすべて口に出てしまう性格のようです。

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ちょっかいを出してくるベアトリーチェを拒絶していたドナテッラですが、作業に出掛けた花卉農園から二人して逃げ出し、行き当たりばったりの逃避行が始まります。陽のベアトリーチェと陰のドナテッラの組み合わせが良い感じです。

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実は彼女たち二人とも罪を犯し、精神疾患を理由にここに送られてきています。映画「人生、ここにあり」のブログで記したように精神病院が廃絶されているイタリアですが、いわゆる触法精神障害者の扱いは別で、本作の登場人物のような凶悪でない犯罪でも専門の施設に収容されていたようです。

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二人が一緒に行動しているうちに、それぞれどんな罪を犯したか、その罪を犯すに至った事情が明らかになっていきます。そこには女性ならではの理由もありますし、もちろん彼女たち固有の理由もあります。しかし、いずれも根底に彼女たちの生育環境の問題があって、それが女性であることと不可分である点が本作のベースにあるように思います。

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ベアトリーチェの実家からクラシックカーで逃げ出すシーンなど「テルマ&ルイーズ」を彷彿させますが、破滅的な展開に至る物語ではなく、ある種のハッピーエンディングを迎えますので安心してご覧になれます。イタリアを代表する演技派女優の競演と、美しいトスカーナの風景が心地良く楽しめる映画です。

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公式サイト
歓びのトスカーナ

[仕入れ担当]