映画「ジュリエッタ(Julieta)」

00 主人公の名前“Julieta”は“フリエタ”と発音します。彼女が、若い女性から声をかけられ物語が動き始めるのですが、この印象的なシーンの起点になるのが“フリエタ!”という呼びかけ。

このあたりがスペイン語の映画の厄介なところですね。原作となったアリス・マンロー(Alice Munro)の短編集“Runaway”の主人公の名前がジュリエット(Juliet)ですので、その絡みでこういう邦題になったのだと思いますが、なんとも中途半端な感じです。

とはいえ、久しぶりに原点回帰して母娘ものに取り組んだペドロ・アルモドバル監督(Pedro Almodóvar)、本領発揮といえるでしょう。前作「アイム・ソー・エキサイテッド!」や、直近のプロデュース作品「人生スイッチ」が今ひとつ響かなかったアルモドバル・ファンの方も、女性の心の機微を精緻に描いていくストーリーと、独特の色彩感覚にあふれた映像を心ゆくまで堪能できると思います。

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たとえばオープニング。揺れる赤い布のドレープを背景に、黄色をアクセントにした白文字のタイトルが現れ、カメラが引いていくとその赤い布がフリエタの服の一部だったことがわかります。続いてプリミティブな彫像のクローズアップ。センシュアルでスタイリッシュなアルモドバルの世界観が一気に拡がります。同時に、過去を捨てようと決心したフリエタの揺れる心が伝わってくる素晴らしい幕開けです。

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12年前に何も告げず行方をくらました愛娘アンティア。彼女に対する思いに囚われ、苦悩を抱えてきたフリエタが新たな生活に踏み出そうとしていたその矢先、街角で偶然に出会ったベアから、コモ湖畔でアンティアと会ったと告げられます。ベアはその昔、アンティアの親友だった女性。アンティアは行くのを嫌がっていたキャンプでベアと親しくなり、青春のひとときを謳歌している最中に父親を失います。それが彼女の失踪に影響を及ぼしていることは想像に難くありません。

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ベアによると、アンティアには子どもが3人いて、母フリエタは今もマドリードに住んでいると語ったそう。それを聞いたフリエタは、彼女が戻ってきたときに、自分を探せなくなるのではないかという不安に駆られ、ポルトガルでの新生活をとりやめ、娘が失踪したときに暮らしていたアパートに部屋を借りて暮らし始めます。

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そのアパートでフリエタは、アンティアの父親ジョアンとの出会いから彼の死に至るいきさつ、ジョアンの女友だちアバとの関係や家政婦マリアンとの確執、アンティアが生まれてからギクシャクした自分の父母のことなどを分厚いノートに書き綴っていきます。映画の観客は、ノートの記されていくフリエタの半生を映像で追体験するわけです。

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過去と現在を行き来する関係で、現在のフリエタをエマ・スアレス(Emma Suárez)、過去を「情熱のシーラ」のアドリアーナ・ウガルテ(Adriana Ugarte)が演じ分けています。エマ・スアレスについては、カンヌ映画祭のフォトコールに、ベアトリス・パラシオス(BEATRIZ PALACIOS)のジュエリーを身につけて登場したというニュースをこのブログでご報告しましたね。

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ジョアンを演じたのは「スパニッシュ・アパートメント」に出ていたダニエル・グラオ(Daniel Grao)、アバを演じたのは「ブランカニエベス」に出ていたインマ・クエスタ(Inma Cuesta)。

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そして、これが地味なようで重要な役なのですが、家政婦マリアンを演じたのがロッシ・デ・パルマ(Rossy de Palma)。個性的な顔立ちなのですぐにわかると思いますが「神経衰弱ぎりぎりの女たち」「アタメ」など初期アルモドバル作品で活躍した女優さんです。

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その他、有名どころでは「トーク・トゥ・ハー」の準主役で「人生スイッチ」で音楽評論家を演じていたダリオ・グランディネッティ(Darío Grandinetti)がフリエタの現在のボーイフレンド役、「私が、生きる肌」に出ていたスシ・サンチェス(Susi Sánchez)がフリエタの母親役で出ています。

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あまり知名度はありませんが、「エル・ニーニョ」で主人公の仲間の姉アミナを演じていたマリアム・バシール(Mariam Bachir)が、フリエタの父母の同居人サナアの役で出ています。本作では引退した両親の隠居先であるアンダルシアの空気感が非常に魅力的に描かれているのですが、アラブ系の彼女を配し、隠居先を決めた理由に彼女が関係していることを匂わせているのでしょう。

それ以外にも、ジョアンやアバの地元である漁村(ガリシア州ア・コルーニャ県)や、アンティアを探しに行くピレネー山脈(アラゴン州ウエスカ県)の映像がとても美しく、今すぐ旅立ちたくなります。

またエンディングで流れるテーマ曲“Si no te vas”(もしあなたが去らなかったら、という意味)も良い感じ。もちろん、登場人物たち(下の写真はフリエタの母親)が着る衣装も洒落た小物もアルモドバルのセンスが炸裂していて、見応え十分です。

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公式サイト
ジュリエッタJulieta)(英語サイト

[仕入れ担当]