映画「イレブン・ミニッツ(11 minut )」

00 ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキ(Jerzy Skolimowski)の新作です。

といっても私は近作の「アンナと過ごした4 日間」も「エッセンシャル・キリング」も観てなくて、何となく観にいったのですが、思った以上に人気があるようです。平日の晩なのにけっこう混んでいました。

映画は、11分間に起こるいくつかの物語が併行して描かれ、それらが1点に集約されてしまうというもの。ポール・ハギス監督「クラッシュ」のような作品かと思って観ていましたが、あのような緻密な組み立ての映画ではありません。

結果に至る何かが共通しているわけでも、そこから普遍的な課題が導き出されるわけでもなく、きっと監督が楽しみながら作ったのだろうという印象の作品です。

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10人ほどの人物を中心に展開するのですが、いちばん重要かつ最終的なオチにつながる人物がアンナというセクシーな女優。彼女が米国の映画監督から、個人的にオーディションをしたいとホテルの一室に呼び出されます。その男というのが本当に監督かどうかも怪しい下心のかたまりで、映画の話など語らずにただ婉曲に口説き続けるだけ。

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それを危惧したのか、アンナの夫も遅れてホテルに駆けつけます。その途中で画面に映り込むホットドッグ・スタンド。この店の常連らしい尼僧たちが、向かいのバス停に行く前に、店主の軽口を聞きながらホットドッグを購入します。その中年店主は、ちょっと気弱そうな風貌に反して刑務所に入っていた過去があるようです。そしてその店の別の常連である犬を連れた女性も離婚協議中のようで、詳しくはわかりませんが訳ありです。

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それとは関係なく登場するバイク便の若い男性。どこかの奥様の浮気相手になっているようですが、その夫が予想外に早く帰宅し、あわてて飛び出していきます。最後に彼はホットドッグ屋の店主のせがれだとわかるのですが、その関係に何らかの含みがあるわけではありません。単に父を迎えにいったためにホテル界隈にいることになったというだけです。その他、強盗に失敗した少年や、橋の絵を描いていて映画のロケを目撃する老人などが登場します。

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そういう感じで一見、無関係な人たちが登場して物語が紡がれていくのですが、全体を覆っているのが、とらえどころのない不吉な感覚。飛行機が轟音を響かせながら低空を飛んでいたり、空に浮かぶ黒い点が話題になったり、部屋に飛び込んできた鳥が鏡に衝突したり、これから悪いことが起こるのではないかと予感させる仕掛けに満ちています。というか、ほとんど仕掛けと伏線だけで引っ張っていってしまうタイプの映画です。

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この伏線の一つでもあるのが、オープニングで使われているノイズ感のある映像の数々。一種の登場人部の顔出しになっているのですが、iPhoneやITVの荒れた映像なので、その後、次々に登場する脈絡のない物語を観ているうちに、最初に何か見落としたのではないかという不安に陥ります。しかし、そんな精神的な揺さぶりも、おそらく監督による演出の一つなのでしょう。結末はあっけにとられるぐらい単純ですので心配は要りません。

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映画監督を演じたのは英国人俳優のリチャード・ドーマー(Richard Dormer)。それ以外は、女優役のパウリーナ・ハプコ(Paulina Chapko)やその夫を演じたヴォイチェフ・メツヴァルドフスキ(Wojciech Mecwaldowski)、ホットドッグ屋のアンジェイ・ヒラ (Andrzej Chyra)、バイク便のダヴィッド・オグルドニク(Dawid Ogrodnik)など、ほとんどがポーランドで活躍する俳優たちだそうです。

ということで、とても不思議な余韻を残す作品です。万人にお勧めできる映画ではありませんが、こういう映画体験も悪くないな、と思わせるだけの価値はあると思います。

公式サイト
イレブン・ミニッツ11 minut

[仕入れ担当]