映画「ヘイトフル・エイト(The Hateful Eight)」

00 タランティーノ(Quentin Tarantino)らしい凝ったB級映画です。ポスターなどで本格派ウェスタンをイメージしてしまいそうですが、物語はシンプルな密室ミステリーですので、勧善懲悪による爽快感とはまったく無縁です。週末の劇場には、勘違いして来てしまったと思われる観客が結構いて、映画の展開とともに微妙な雰囲気が広がっていました。この監督の作風(血しぶきが散ったり、頭が吹き飛んだり)を理解していて、それを3時間楽しめる方または我慢できる方限定の作品です。

タランティーノ監督8作目ということで、8人の登場人物の間に疑心暗鬼が広がるこの物語。時代は1870年代から1880年代あたりでしょうか。南北戦争は終わったというものの、まだ北軍・南軍それぞれの立場を捨てきれていない時代で、登場人物の一人が北軍の騎兵隊として闘った黒人、二人が南軍で闘った白人という設定が妙を添えます。

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猛吹雪の中、6頭立ての駅馬車がワイオミング州レッドロックに向かっている場面からスタート。車中にいるのは駅馬車をチャーターした賞金稼ぎのジョン・ルースで、1万ドルの賞金首をかけられた女囚デイジー・ドメルグを手錠で繋いで連行中です。道中、北軍の軍服を着た黒人が現れ、賞金首3人の死体をレッドロックに運んでいる途中で馬が潰れてしまったので同乗させて欲しいと頼みます。彼も賞金稼ぎを生業にしているマーキス・ウォーレン。もともと北軍の少佐でしたが、白人殺しで自らも賞金首になったことがある危険人物です。

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レトロなタイトルバックに続くこの吹雪のシーンが、実は映画の見どころの一つです。わざわざ全編65mmフィルム(Ultra Panavision 70)で撮影し、映像に広がりと深みを持たせている本作でその効果がもっとも現れる場面。といっても、日本公開はデジタル版のみですので、私は70mmデジタル上映ができる丸の内ピカデリーで観たのですが、こだわりの映像を堪能できたかどうか、これまた微妙なところでした。

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さて、この3人が乗った駅馬車。車中でリンカーン大統領からの手紙を巡る小さな事件があった後、レッドロックの新任保安官として赴任する途中だというクリス・マニックスを拾い、さらに激しくなった吹雪を避けるため“ミニーの紳士服飾店(Minnie’s Haberdashery)”に逃げ込みます。この過程で、クリス・マニックスは南軍で戦った元士官で、略奪団を組織して黒人を虐殺していた過去が明かされます。

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4人が店に着くと、店主のミニーは不在で、留守番のメキシコ人ボブと3人の先客がいます。レッドロックの絞首刑執行人だと名乗るオズワルド・モブレー、母親に会いに行く途中だというカウボーイのジョー・ゲージ、そして半分ボケているかに見えるサンディ・スミザーズ。実はこの老人、黒人の大量虐殺で名を馳せた南軍の元将軍で、士官だったクリス・マニックスは名を聞いた瞬間から尊敬のまなざしです。

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この界隈で行方不明になった息子を捜しているというサンディ・スミザーズに対し、彼の最期を知っているとマーキス・ウォーレンが言います。なぜなら彼が死んだ日は、彼がマーキスと会った日だから。サンディ・スミザーズの息子に加えた辱めをとうとうと語って挑発し、銃に手を伸ばしたサンディ・スミザーズをすかさず射殺します。正当防衛のカタチをとった私怨による復讐です。

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そのドタバタの隙に、誰かがコーヒーに毒薬を入れ、ジョン・ルースと御者のO.B.が血を吐いて死に絶えます。残りは6人。銃を撃った黒人のマーキス・ウォーレン、ジョン・ルースと手錠で繋がれていた女囚のデイジー・ドメルグ、一緒にコーヒーを飲もうとした保安官のクリス・マニックスが犯人でないことは明らかです。つまり、絞首刑執行人のオズワルド・モブレー、カウボーイのジョー・ゲージ、メキシコ人のボブの3人が怪しい。

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こうして密室での推理劇が始まり、コメディと言ってよいほど血みどろの結末に向かっていきます。ここで展開される会話の応酬が第2の見どころ。凝ったカメラワークと並んでもっともタランティーノらしい部分です。ちなみに出演者にチャニング・テイタム(Channing Tatum)の名がクレジットされているのですが、この時点で彼は出てきていません。そう、彼こそがこの復讐劇の鍵を握る人物。もちろんどういう登場の仕方をするかは観てのお楽しみです。

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主な出演者としては、マーキス・ウォーレンを演じたタランティーノ映画の常連俳優サミュエル・L・ジャクソン(Samuel L. Jackson)、ジョン・ルースを演じたカート・ラッセル(Kurt Russell)、オズワルド・モブレーを演じた「レザボア・ドッグス」「パルプ・フィクション」のティム・ロス(Tim Roth)、サンディ・スミザーズを演じた「ジャンゴ」「ネブラスカ」のブルース・ダーン(Bruce Dern)といったあたりが有名どころでしょうか。メキシコ人のボブを演じたデミアン・ビチル(Demián Bichir)もソダバーグ監督「チェ」のカストロ役などメキシコ人俳優として知られている人です。

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そして、この8人の中で唯一の女性(ミニーも店の従業員も女性ですが)であるデイジー・ドメルグを演じたジェニファー・ジェイソン・リー(Jennifer Jason Leigh)。これでアカデミー助演女優賞にノミネートされただけあって渾身の演技でしたが、彼女が演じた役どころ、そのクライマックスにはきっと賛否分かれることでしょう。まぁタランティーノ作品ですから、というしかありません。口直しに他の映画が観たくなる方も多いかと思います。

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公式サイト
ヘイトフル・エイトThe Hateful Eight

[仕入れ担当]