映画「クリード チャンプを継ぐ男(Creed)」

00 40年前にアカデミー作品賞/監督賞に輝いた「ロッキー」のスピンオフ作品です。監督は前作「フルートベール駅で」で長編デビューを飾ったライアン・クーグラー(Ryan Coogler)。1986年生まれといいますから「ロッキー」シリーズが人気を博した頃はまだ生まれていませんし、シルヴェスター・スタローン(Sylvester Stallone)のもう一つの代表作「ランボー」シリーズもリアルタイムでは観ていないでしょう。

実際、本作の企画を持ちかけたときは前作の公開前で、実績ゼロの若者を前にスタローンは不安げな表情だったとインタビュー記事にありました。

そんな打ち明け話とは裏腹に、老いたロッキーを演じるスタローンの嬉々とした表情が印象に残る作品です。もちろん主人公のアドニス役マイケル・B・ジョーダン(Michael B. Jordan)も好演していたと思いますが、それより何よりスタローンが嬉しそうで嬉しそうで……。

引退してボクシングから離れていたところを、若者の熱意に押し切られて再び首を突っ込むという役どころが、今のスタローンにフィットしたのでしょう。また、擬似的ではありますが、父と息子の物語というスポコン系の基本といえる設定も良かったのだと思います。

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物語の幕開けは子どもたちのけんかシーン。父親は自分が生まれる前に亡くなり、その愛人だった母親も若くして亡くなったアドニスは、孤児として児童養護施設で暮らしています。その父親というのが、ロッキーのライバルであり、その後、親友となった伝説のボクサー、アポロ・クリード。その忘れ形見であるアドニスは、けんかばかりしている施設の問題児でしたが、そこにアポロの未亡人メアリー・アン・クリードが現れ、アドニスを引き取ると申し出ます。

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その数年後。おそらく良い大学を出たのでしょう。アドニスはL.A.の投資銀行で働いていて、週末には自己流で始めたボクシングの腕試しにメキシコでリングに上がるという生活をしていました。アポロの血をひくだけあってメキシコでは連戦連勝。会ったことのない父親の幻影を引きずり、ボクシングに本気で打ち込んでみたいという思いに勝てなくなって、結局、昇進した矢先に投資銀行を辞めてしまいます。

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アポロが所属していたジムに行って、道場破りのようなことをしますが、さすがに鍛え抜かれたプロボクサーにはかないません。愛車のコルベットを賭けてアンドレ・ウォード(Andre Ward)演じるダニー・ウィーラーと闘い、あっけなく叩きのめされてしまいます。しかしボクシングに対する情熱はますます高まり、ロッキーの指導を受けるため、アポロが遺した豪邸を出てフィラデルフィアに転居します。

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既にボクシングから引退し、亡き妻の名を冠したイタリアンレストランを経営していたロッキー。突然訪ねてきたアドニスに戸惑いながらも、最終的にはトレーナーを引き受けることになります。ジムのオーナーであるピート・スポリーノも、ロッキーがセコンドにつけば話題性で観客が呼べるとみて、息子のレオとの試合を組みます。ロッキーは、アドニスがアポロ・クリードの息子だということを伏せたままトレーニングを始めます。

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ガブリエル・ロサド(Gabe Rosado)演じるレオ・スポリーノは強豪でしたが、必死の特訓の甲斐あって、かろうじてアドニスが勝利します。しかし、その勝利の情報と共にアドニスの出自が新聞に載ってしまい、それを見たリバプールのチャンピオン、コンランのトレーナーから試合を申し込まれます。要するに話題性に乗じた“噛ませ犬”なのですが、アドニスはその挑戦を受けて立つことに決めます。

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無名のボクサーが、千載一遇の機会を得て無謀な闘いに挑むのは「ロッキー」の構図そのまま。同じアパートで暮らす女性歌手、ビアンカを心の支えに頑張るというあたりも「ロッキー」とよく似た設定です。その後、ハードなトレーニングを経て、大観衆の中で死闘を演じるという展開も、「ロッキー」へのオマージュというより、あの感動をもう一度!という脚本なのでしょう。さすがにクライマックスの試合シーンは圧巻です。

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ちなみに終盤の大観衆の映像は、グディソン・パーク(Goodison Park)で行われたプレミアリーグ、エヴァートン対ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンの観客席を撮ったものだそう。サッカーとボクシングは客層が近いのか、まったく違和感なく溶け込んでいました。

主役のマイケル・B・ジョーダンは「フルートベール駅で」の主人公を演じていた若手俳優。そのガールフレンドとなるビアンカを演じたテッサ・トンプソン(Tessa Thompson)は「グローリー」で学生活動家を演じていた人ですね。

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その他の出演者、最後の対戦相手であるリッキー・コンランを演じたトニー・ベリュー(Tony Bellew)も、アンドレ・ウォード、ガブリエル・ロサドも本職のボクサーだそうです。練習シーンのスパークリングパートナーや、試合シーンで傷を治療するカットマンも本職とのことで、このあたりも「ロッキー」を継ぐ作品たる所以でしょう。

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そんなわけで、直球ど真ん中のスポコン映画です。フィラデルフィア名物のチーズステーキや、美術館前のロッキー・ステップといった観光の目玉も登場させ、誰にでも楽しめる映画になっていると思います。

公式サイト
クリード チャンプを継ぐ男Creed

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