ラテンビート映画祭「ザ・クラブ(El Club)」

00 ガエル・ガルシア・ベルナル主演「NO」の監督、パブロ・ラライン(Pablo Larraín)の最新作です。2015年のベルリン映画祭で審査員グランプリを受賞していますが、テーマがカソリック教会の暗部ですので、こういった映画祭で観なければ機会を逸してしまいそうな種類の映画です。

物語の舞台はチリの海辺の町、ラ・ボカ(La Boca)の外れの一軒家。中年から老年にかけての男性4人と女性1人が暮らしています。男性は全員、罪を犯した聖職者で、彼らが犯罪者として公に裁かれることを避けたいカソリック教会が、こっそり僻地の家に軟禁しているというもの。女性は教会から送り込まれた看守兼世話役です。

映画の幕開けは、その一人、ヴィダル神父(Padre Vidal)が海岸で犬の訓練をしているシーン。棒の先に付けたオトリを追う犬が、神父の周りを何度も何度も駆け回ります。

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続くドッグレース場のシーンで、この犬が競走用に調教されたグレイハウンドだとわかります。犬をゲートに入れている女性がモニカ(Madre Mónica)。正規の聖職者ではありませんが、この家ではシスターとして扱われています。

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ドッグレースの賞金を山分けする相談をしたり、罪を償っているとは思えない和気藹々とした暮らし振りですが、そこに新入りの神父、ラスカノ(Padre Lazcano)が送られてきて事情が変わります。彼の罪は同性愛で、子どものころ彼の相手をしたという男が家の外に来て、過去の出来事を大声で訴え始めたのです。

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見かねたシルバ神父(Padre Silva)が、ラスカノに拳銃を渡し、そのサンドカン(Sandokan)という男を追い払うように言います。シルバは軍の神父として、独裁政権に協力した罪を背負ったマッチョな男。けしかけられたラスカノは、家から出てサンドカンと向かい合った途端、自らの頭を撃ち抜いて自殺してしまいます。

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事件の処理役として教会から送り込まれてきたのが、ガルシア神父(Padre García)。彼の使命はこの呪われた家の存在を消し去ること、つまり閉鎖することです。それを察知した家の住人たちは、何とか阻止しようと、口裏を合わせて事件の経緯を隠蔽します。

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このあたりまで来ると、ヴィダル神父は幼児性愛者で、オルテガ神父(Padre Ortega)は未婚の母から子どもを略取したということがわかってきます。もう一人の神父、ラミレス(Padre Ramírez)は高齢でぼけているので、どんな罪か最後まで明らかになりませんが、モニカはアフリカから迎えた養女を虐待した過去を匂わせます。

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そんなヴィダル、シルバ、オルテガ、ラミレスの4神父とモニカが、クラブ的に結束し、ガルシア神父をうまくやり過ごそうとするのが概ねのストーリー。もちろん彼らの思い通りにはいかず、思いがけない皮肉な展開に繋がっていきます。そういう意味では、ブラックコメディ的な要素もある作品です。

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ヴィダル役のアルフレド・カストロ(Alfredo Castro)、シルバ役のハイメ・ヴァデル(Jaime Vadell)、サンドカン役のロベルト・ファリアス(Roberto Farías)、モニカ役のアントニア・セヘルス(Antonia Zegers)は「No」にも出ていたラライン作品の常連たちで、アントニア・セヘルスは監督の妻。

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後で知ったのですが、ガルシア役のマルセロ・アロンソ(Marcelo Alonso)は「リアリティのダンス」でナチの将校、オルテガ役のアレハンドロ・ゴイック(Alejandro Goic)は「グロリアの青春」でグロリアの元夫を演じていたそうで、現代チリを代表する俳優たちが勢ぞろいといったところでしょうか。個性的な出演者と露出がズレたような独特の映像が不思議な余韻を残す作品でした。

ラテンビート映画祭
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[仕入れ担当]